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第60話
目覚めてから、洗濯をする俺と桂に、ばあちゃんは「偉いねぇ、ちゃんと洗濯できるなんて。」と言った。
なんだか二人して俯いてしまったけど、変だったかな。
昔からよく来ていたから、俺がいる事には驚かないばあちゃんも、孫の部屋を開けたら二人でくっついて寝てるのにはびっくりした様で・・・。
さすがに布団を剥いだりはしないけど、そそくさと退散したのはどうしてかな・・・。
俺は自宅へ電話を入れると、桂の家に来ていることを告げる。
母親は、ちょっと驚きながらも天野さんの名前は出してこなかった。というか、桂と遊んでいると思ってるんだろうな。
まあ、昔に戻った感じで、俺たちの間にあった壁はすっかり取り払われてしまったようだ。
「これ食べたら神社に行かね?!」
桂は、お雑煮の椀を手にすると、横目で俺を見ながら聞いてくるが、ふうふうと息を吹きかけて、冷ましながら食べる姿も懐かしい。
「うん、いいよ。前に行った事のある神社にするか?歩いて行けるしさ。」
「ああ、あそこ・・・。甘酒くれたところか。」
「そう、桂が猫舌のくせにごくごく飲んじゃって、酔っぱらって動けなくなったとこだよ。」
二人で、中学の時行った神社の話で盛り上がる。
その時は、長谷川やほかの友達も2,3人一緒だった気がするけど、今のような感情はもちろん感じていなかった。
ただ、ものすごく心配だったって事は覚えているんだ。
それに、普段シャンとしている桂の可愛い一面が見られた事が新鮮で。
「じゃあ、仕度して出掛けよう。」
「うん、」
- - -
桂と俺の家から歩いて30分。
結構な距離ではあるけど、しゃべりながら歩くと案外苦にはならない。
ダウンコートを羽織った俺に、桂がそっと自分のはめた手袋の片方を外して渡す。
「・・・ん?俺に?」
「ああ、千早の指すぐに冷たくなるし、かさついたらイヤだろ?!」
そう言って手袋をはめてくれた。
桂の手が、そっと俺の手を包み込んで、ギュって握る様にしてくる。
「・・・なんか・・・・。フフ・・・」
ちょっと照れくさいな。こんなに優しい言葉を掛けてもらえて・・・。
「じゃあさ、手袋ない方の手、・・・繋ぐ?!」
俺は桂の手を握り返すと言った。
でも、さすがにこんな人通りの中で、男同士手を繋ぐ勇気はなくて、言ってはみたものの苦笑いをする。
「こうすりゃいいさ。」
桂は俺の手を取ると、ダウンコートのポケットに手を突っ込んできた。
二人で一つのポケットに手を入れると、中で指を絡める。
寒いし、からだをくっつけて歩けば、互いに顔がにやけて、時々目を合わせるとまた俯いた。
そんな些細な事も、今日の俺たちには心に残る楽しいひと時の思い出になるはず。
賽銭箱の前まで、順番に並んで進むと、桂が俺の耳元で囁いた。
「お願い事、何にするか決めた。」
「え?・・・俺まだ。・・・何にしようかな。」
首をひねりながら考える俺に、桂はコートの裾を引っ張って顔を自分に向かせると「千早とずっと居られますようにって、お願いしておく。」と言った。
「・・・・ふㇸ、・・・・・マジか!・・・・」
その後の言葉が出て来ない。
本当に照れるし、自分に正直になるのって、案外難しいものだな。
「ありがと。・・・俺も、それにしとくワ。」
ニッと口元を上げると、桂に言った。
目の前の賽銭箱に100円を入れると、手を合わせて目を閉じる。
さっきまで、周りに人の気配を感じていたのに、手を合わせた途端俺の背中はシャキッと伸びて、これからの俺たちの世界が広がっていく事を願った。
今までとは少しだけ違う、俺と桂の距離。
学校は違ってしまっても、心は前より近くに感じる。
「・・・じゃあ、行くか?!」
「うん、・・・・・あ、今年は甘酒飲むなよ。」
「・・・はは、分かってるって。」
俺たちは、境内の入口で【甘酒】と書かれたのぼり旗を横目で見ながら歩いて行った。
俺のコートのポケットには、繋がれた二人の指が絡んでいる。
そこだけが、じんわりと暖かくて、頬に当たる冷たい風も気にならない程だった。
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