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第61話
結局、正月の3日間を桂と一緒に過ごして、気が付けばもうすぐ学校の始まる日が迫っていた。
あの後、天野さんには会っていなくて、母親も美容院への配達を頼まないし、天野さんからの呼び出しもないまま。
急に帰ってしまって、気を悪くさせたか・・・。
それに、なんとなくだけど、天野さんが俺に「行くな」って言った気持ちも分かる。
天野さんにとっての俺は、どんな存在だったんだろうか。
大人のあの人と、俺の感じる好きの度合いは、そもそも違っているだろうけど、もし桂が電話をくれなければ、俺は天野さんと・・・。
憧れているあの人に、くっついていたんだろうと思った。
ただ、俺と天野さんの間で「好き」って言葉は交わされていない。
好きになりそうって、そう言われたことはある。でも、それきり言われなかったな・・・・。
可愛い、とかばっかりで・・・。
何処かで、別れが来ることを悟っていたんだろうか。
「千早、そう言えば進路って決めたのか?」
「え?」
「大学だよ。それか、就職するとか・・・?!」
「ああ、・・・進路ね。まだ決めてないけど、勉強は好きじゃないし、デザインの専門学校行こうかな・・・。」
朝から、俺の部屋でくつろぎながらベッドに横たわると、桂は枕もとの雑誌をペラペラとめくっている。
きっと興味ないんだろうな。一点に注目するようなページはないみたいだ。時間つぶしか・・・。
「なあ、桂。」
「・・・ん?」
「キスする?」
「・・・・・ン」
手にした雑誌を床に落とすと、桂が俺の頬をゆっくり撫でに来る。
横向きになって、髪の毛が頬に掛かっているのを剥す様に、そっと摘んでは耳にかけ、それから俺の唇に触れた。
見つめ合う瞳には、お互いの顔が映っていて、その表情は幸せそのもの。
.....チュ......ツ.....、チュツ......
軽く触れるだけのキスを何度も交わし、段々笑みがこぼれそうになると、俺は桂の胸に顔を埋めた。
こういうのも、本当は恥ずかしくて仕方がないんだ。
天野さんとはもっとエロいキスを交わしていたっていうのに、桂が相手だと、素の自分が前面に出てしまう。
それに、やっぱりどこかでは、昔なじみの親友という立場が消えたわけではなかった。
その親友とキスをしている・・・・。
- ヤバイ・・・・・マジで照れるし・・・・。
「千早~ぁ、桂く~ん、ケーキ食べようよぉ。」
そう叫んでいるのは俺のアネキ。
「おい、ケーキだってよ。食う?!」
桂の顔を見あげて聞くと、「うん。」と言ってもう一度俺の鼻にチュッとする。
せっかく二人でまったりしていたのに、アネキに邪魔されて台無しだ。
まあ、此処でまさかのエッチなんかはしないけども・・・・・。
学校が始まれば会える日も減ってしまうし、少しの時間でも、たとえ服の上からでも、互いの体温を感じていたかった。
こういうのを恋する気持ちっていうのかな・・・・・、なんて、な。
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