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第62話
二人して階下のリビングに降りて行くと、アネキが大きなトレーにケーキの皿を乗せている所だった。
「アンタたち、男二人で部屋に籠って、なにしてんのよ?!・・・」
じろりと俺の顔を見ながらいう。
こういう時、俺はうまくかわせないんだ。
根が正直者だから・・・・
「進路の話。千早、まだ決めてないっていうから・・・。」
桂はしれっとアネキに言って、トレーを持つとテーブルに持って行く。
「ああッ、もうそんな時期?!・・・そうだよね、高3になるんだもんね。」
「はい、まぁ、オレはもう大学決まっているし、後は千早の勉強でも見てやろうかと。」
「さすが桂くん。千早とは頭の出来が違う!!」
- なんか・・・・・悔しい・・・・。
アネキの質問にたじろいでいる俺とは違い、桂はさらっとかわしながらも俺を出来の悪い子のように言う。
「あのなあ、俺だってやればできる子なんだよ。ただ、今はまだ、その時じゃないだけ。」
テーブルに乗ったケーキの中で一番イチゴの大きいものを取ると、自分の膝に乗せながら言った俺。
フフン、と鼻を鳴らしながらフォークで刺すと、イチゴを一口で頬張った。
すると、口の中に甘酸っぱさが広がり耳の下がツンとする。
「いッ、・・・耳んトコ痛い・・・!!」
肩をすくめて言う俺を見ると、アネキと桂が顔を見合わせながら笑ったが、俺は無視してゴクリと呑み込んだ。
こうやって、アネキを交えてしゃべるのも久しぶり。
桂は一人っ子だし、うちのアネキに懐いていたところもあって、久々の会話も違和感を感じなかった。
「なんでこんなに買ってきたんだよ。10人分ぐらいあるだろ。」
目の前のケーキの箱には、まだ出していないものが7個。一体誰がこんなに食べるのかと思って聞いた。
「ああ、好きなだけ食べていいわよ。」
そういうと、俺の方を見た目になんとなく怪しい光を感じる。
「・・・・なんだよ。何か企んでるな・・・?!」
アネキに聞いてみるが、「まあ、食べてから話すわ。」と言って、自分も大口を開けてケーキを呑み込む。
今度は、俺と桂が顔を見合わせた。
ケーキで俺を釣って、何か良くないお願い事とかしてこないだろうな・・・・。
急に食欲が薄れるけど、最後の一口を頬張るとごっくんと喉を鳴らして呑み込む。
しばらくすると、紅茶を飲み干した俺たちの前に、アネキが跪く。
「どうした??」
驚く俺の膝に手を乗せると、アネキは顔を真っ赤にしながら「あたし、結婚する。」と言った。
「・・・へ?」
「え?」
二人、口々に声が出る。それはあまりにも突然で、しかも弟の俺に言うとか・・・・・。
「え、親父たち知ってんの?」と聞く。
アネキはまだ大学生で、あと一年残ってるはず。
学生結婚っていうのは聞いた事があるけど・・・・・。
「言ってない。だから、アンタに応援頼みたいんじゃないのよっ!!ね、千早もあたしの味方になって。桂くんも!!」
そういうと、俺の膝を掴んでくるからのけ反った。
「うそッ!!ヤダやだ。そんなの・・・・・ウソだろ~?!」
叫んだ俺の声は、静かなリビングに響きわたっていた。
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