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第70話
不思議なもので、あれほど自分の性癖を桂には知られまいと必死だったのに.....
こうして並んで、すぐそばで桂の寝顔を見る日が来るなんて。
大晦日の夜、天野さんの手をほどいて桂のもとに走った事。
今更ながらに良かったと思った。
あの晩の、凍り付くような外気の中で、俺と桂の抱き合った空間だけが春の暖かさに包まれていたようで。
この手を離さないと、誓い合った正月の神社での事も。
- 俺は、ずっと忘れないだろう.........
- - -
高校3年生になった俺は、相変わらず桂と仲良くやっていた。
家が近所だと、本当に都合がいいというか・・・。
たとえ忙しい日でも、30分の時間があれば顔を見に行ける。
何を話す訳じゃ無いけど、顔を見て触れあってそれで落ち着くんだ。
互いに必要とし合っているのが分かると、尚更愛しい。
俺は桂の為に、あれ以来天野さんには近づいていないし、母親も、俺が受験生だから気を使っているのか、あんまり手伝いを強要しなくなった。
代りに、アネキが手伝うようになると、自然に友田さんも家に顔を出すようになる。
なんとなく、二人の間に漂う雰囲気で、結婚も近いのかと思った頃。
「実は、一緒に暮らすことにしたの。・・・友田さんは時間が不規則で、食事もとったり取らなかったりで。私がちゃんと管理してあげないと・・・・・。」
晩ご飯を食べながら、俺と母親に向かって言うが、もう決定事項らしい。
今更、誰が反対するって言うんだ?
大学を卒業したら結婚してもいいと、親父に了解を得ているんだ。
好きなようにすればいいさ、と思って特に口出しもしなかった。
「アンタ、就職先は決めたの?もう決まった人多いんじゃないの?」
母親はそちらの方が心配そうで。
俺も少しだけ気になった。
男勝りのアネキが、おとなしく専業主婦になんてなれないさ。
すぐに外へ出たくなるに違いない。
それに、料理だって出来るのか・・・・そっちが心配だ。
そんな話を桂にすれば、
「姉ちゃんらしいな。結構グイグイ行くよな、あの人。」
「そうなんだよ。友田さんて人は見るからに優しそうな人でさ、絶対アネキの言いなりになりそうだからな。押され気味なんだよ。」
「でも、未開の地で、橋を架けたいって言うんだろ?!すごく男らしいじゃん。かっこいいよ・・・。」
二人で友田さんの話題に花が咲く。
「オレも、いつかそういう仕事をしてみたいな・・・。」
桂がどこか遠くに目をやると言った。
「何?!外国行っちゃうの?」
俺が聞くから、こちらを見ると目を細める。
「まあな。いつか、そういう所へ行ってみたいし、誰かの役に立つんならいいかなって思うんだ。
「・・・・へぇ、意外だな。桂は学校の先生にでもなるのかと思ってた。」
「まさか・・・・。まあ、人に教えるのは嫌いじゃないけど・・・。」
二人でしゃべりながら時間が来ると、名残り惜しいが家路につく俺だった。
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