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第91話
「ただいま~」
玄関の開く音と同時に聞こえる声。
居間でごろりと寝転がり、テレビを観る俺は顔だけ上げて桂の方を見た。
「お帰り~、メシは?」
「ま~だ。今日は昼もろくに食べれなくてさ、海外研修の話を聞いていたら遅くなっちゃった。千早は?もう食った?」
そういうと、カバンとジャケットを椅子に掛ける。
「うん、さっきまでアネキが謙を連れて来ていてさあ、腹減ったってうるさいから牛丼食ってきたんだ。」
「ああ、そうか。謙ちゃん3年生になったんだっけ?」
「そう。益々生意気になってるよ。あれは父親が不在だからだな。友田さんいつ帰ってくるのか知ってるか?」
「う~ん、どうだろう。あっちは仕事のペースがゆっくりだからね。日本の企業とは違うんだよ。」
「そうだな・・・。」
相槌を打ちながら、俺は立ち上がると台所へ行き、冷蔵庫から適当に食材を取り出した。
「野菜スープならすぐ出来るけど。」振り向くと桂に尋ねる。
「おッ、ありがと。千早のスープ大好きなんだ。」
そんな事を言われ、ちょっと気分が上がった。
キャベツをざく切りにすると、玉ねぎやニンジンを刻み、ベーコンを厚く切って鍋に入れる。
そこに水を入れて、コンソメで味を付けるだけ。
後は煮込んで出来上がりという超簡単なものだ。
でも、桂は喜んでくれる。
テーブルに置いた途端、スープの中のキャベツをすくうと口に入れた。
「ん、ウマイ。このキャベツの柔らかさがいいんだよな。玉ねぎの甘みも出てるしさ。」
美味しそうに口へ運ぶ姿にちょっと気恥ずかしくなる俺だったが、こうして起きている間に顔を見られることが少なかったから凄く嬉しくて、真向かいに座ると桂の食べる姿を頬杖をついて見ていた。
俺と目が合うとニコリと微笑むが、口はせわしなくスープを掬って入れている。
そんな様子に、俺は心があったかくなる。
「千早・・・、風呂入った?」
桂は手を止めると俺に聞いた。
「いや、まだだけど?!」
「じゃあ、一緒に入ろうか?」
「え?・・・・・狭いじゃん。ヤだよ。」
「え~っ、久々なのに・・・。」
「ば~か、早く食っちゃえよ。俺、先に入ってくるから。」
「・・・うん、分かった。」
台所を後にすると、自分の着替えだけを持って風呂場へと行く。
そういえば、最近は昔ほど桂と肌を重ねていない。
忙しくて、すれ違いになることが多いし、同じベッドに寝る事も少なくなったからか・・・。
ここに住み始めた頃は、まるっきり二人の世界で、毎晩のようにからだを求め合った。
今は、落ち着いた夫婦の様で、互いの顔が見えればそれで安心する。
身体を壊さない様に。なんて願うだけって、かなり所帯じみてるな・・・。
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