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第107話

 暗闇に、一瞬閃光が射したような気がして、目が覚める。 - - - 何?雷か..........?! 雨音は聞こえなくて、庭で虫の声がしているだけ。なんとなく胸の中がざわざわと粟立つ。皮膚に鳥肌が立つような感覚を内面に感じ、思わずベッドから起き上がった。 カーテンの隙間から外を眺めるが、取り立てて雨が降るような雲は見当たらない。月の光も満月に近く庭の木々に降り注いでいた。 - - - 嫌な感じだ............。 そんな風に思いながらも、ベッドに腰を置いたその時。枕元の携帯が鳴った。 「.......はい、どうした?!」 表示されたのはアネキの名前。 こんな時間に掛けてくることはなかったし、さっきの胸のざわつきが治まらないままで、気持ち悪かった。 「.......」 声を発しないまま、何をしているんだろう、と思った俺だったが、電話の向こうで呻くような声がしているのに気づく。 「アネキ?!......どうしたんだ、何かあったのか?謙が熱でも出したか?」 俺は思いつく事を聞いてみたが、まだ声は出て来ない。 「.....アネキって!!黙ってたらわかんないよ。何か言ってくれよ!!」 少しイラついてそんな事を言ってしまった。が、すぐに帰ってきた言葉。 「どうしよう........、行方不明だって.........、ねぇ、どうしたらいい?」 「......え?......誰の事を言ってるんだよ。まさか.......友田さん?」 さっきのざわつきは余計に酷くなって、俺の背中も電気が走ったみたいに震えてきた。 それに、あっちは今頃仕事をしている時間帯。そんな時間に行方不明って......... 「何言ってるんだよ。ちゃんと説明しろって!!分かんねぇよ。」 だんだん言葉もきつくなって、声も大きくなってしまったが、伝わってこない状況に俺自身がイラついた。 「.....ごめん、さっき友田の会社の上司から電話が来て......」 と、そこまで言ったアネキが突然涙声になると、「橋ごと流された、って.......、長雨で地盤が緩んで、丁度橋の点検をしている時に、友田、.....が、.........」 その先は、声にならない声で泣くばかり。 俺は何を言えばいいのか分からなくて.......。 「アネキ......、アネキ、しっかりしろ。今からそっちに行くから、.....」と、励まそうとしたとき。 「桂くんも、.......一緒、......に........」 「..........ぇ?」 しばらく頭の中が詰まったみたいな感覚になる。頭なのか、耳の中なのか........、とにかく俺の身体の中身が固まった様な気がした。 「なんて?.......桂も、友田さんと一緒に?」 やっとの事で口をついて出たが、その先を聞くのが恐ろしい。何処かで耳を塞ぎたい衝動にかられた。 「......そう、他にも、現地の社員とか、日本人の社員も、全部で10人以上,.........だって.........。」 「......................」 その場に崩れ落ちそうになるのを必死でこらえると、それでも俺はアネキの元へ駆けつけてやらなければ、と思った。 「とにかく、待ってろ。すぐ行くから.....。」 「うん、ありがと......。」 携帯電話と財布、それだけを持つとTシャツの上にパーカーを羽織りタクシーを呼ぶ。 明け方近くなっても、なかなか来ない車にイラつきながら、何処かでは必死に「冷静になるんだ」と言い聞かせていた。 俺が慌てて、変になったらどうする?本当に桂も一緒に流されたのか確認しなくちゃ。 タクシーに乗り込み、運転手にアネキの家を告げた俺は、シートに身体を預けて空を見る。 この空は、アイツのいる場所に繋がっているんじゃないのか.........?

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