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第110話
「あの日は、前から続いた雨の為、工事は2日間中止になっていたんですが.........
彼らは作業の遅れを気にしていて、今のうちに点検を済ませておこうとしたらしいです。」
同僚の人が説明をする。
でも、そんな話を聞かされたからといって納得なんか出来やしない。
「友田は.......とても責任感の強い人間です。
あの人なら、きっとそうしたと...........」
アネキは声を詰まらせながら言った。
「桂くんは、友田くんに懐いていましたからねぇ、
進んで自分も手伝おうとしたんでしょう.......、まさか、こんな事になるなんて.........」
俺たちは、言葉を失ったみたいに、ただじっとうな垂れるしかなかった。
翌朝からは、範囲を広げての捜索が始まった。
浅い場所で、土砂に埋もれて亡くなった人が見つかると、家族の中からは悲鳴のような声が聞こえる。
そんな事を何度も繰り返すが、友田さんと桂の姿は何処にもなかった。
目前に広がる濁った川の中に、友田さんと桂はいるんだろうか。
それとも、案外自力で泳ぎ着いたりして.......
何処かで保護されているとか............
そんな希望を心の中で描きながら、固唾をのんで捜索を見守った。
「川って、海まで続いているんだよね。」
「.......ああ、そうだな。」
「.........あの人、25メートルしか泳げないって言ってた。」
「.....................」
暗黙のうちに、互いの心の中には【死】という文字が浮かんでくる。
次々に発見される遺体の名前を聴きながら、自分の身内でないという安堵の様な不安の様な複雑な心境が混ざって。
だんだんと感覚が麻痺してくる。
この光景がどこか次元の違う場所で起こっているような気さえして。
結局、その日発見されたのは、現地の作業員が3人と日本の社員がひとりだけだった。
他の9人の姿は発見されないまま.........。
「お父さん、何処まで行っちゃったんだろう........」
ポツリと謙が言う。
窓枠に手を掛けて、外の景色を眺めても、捜索のための小さな明かりが点在するだけ。
この子の目に映るものが、どんなに酷い現実でも、そこを観ずには通れない。
進んで行くためにも、通過点と考えるしかない。
それは、自分にも言い聞かせた言葉。桂の姿が見えない以上、希望は持ち続ける。
でも、覚悟もしておかなければ.........
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