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第112話
...........................................ぅ、
「........................」
そっと俺の肩に手を置くと、桂の父親は「すみません、驚かせてしまって.......。」と謝った。
「....................」
嗚咽が漏れないように口を塞いだ俺だったが、溢れ出た涙をぬぐう間もなく声だけを呑み込んだ。
知らなかった。
桂は父親に俺との事を話していたんだ。
...................どうして、.......?俺にはそんな事を言わずに............。
「私の母が言ってました。千早くんは自由な子供で、秀治はとても羨ましいと言っていたと。」
「.......自由?..........なんか、それ.........俺が子供っぽいって事ですかね?!」
「いえ、そういうんじゃない。自分に正直に生きていると思ったんでしょう。秀治は私のせいで大人びた子供に育ってしまったから。」
「.........すみません。アイツを.......秀治を好きになって。........俺、.........」
自分の親に、そんな事実を言わせたのは俺のせいだ。
悲しませるつもりはなかったのに......。親には話すつもりでいたけど、気持ちのどこかで後回しにしていた。
それどころか、ずっと一緒に暮らす事で既成事実を作ってしまおうとさえ考えた。
口には出さなくても、俺と桂の事を認めてくれるだろうと、そんな甘えた気持ちでいたんだ。
でも、桂は違った.........。
「謝らないでください。.......実は、.......一時の気の迷いだろうと思っていたんです。だから、様子を見ようと思って知らない顔をしてしまいました。.....まさかこんなに続いているなんて思っていなくて......。」
「桂さん、..........。」
床に膝をつくと、俺は頭を下げる。
俺との事が無ければ、桂はきっといい息子で、この人の自慢の息子になったはず。
もっと話が出来たかもしれない。
俺が、この人と桂の仲を遠ざけてしまった。
「千早くん、どうか頭をあげてください。秀治が選んだ道です。君を一番に選んで、そして自分の仕事にも力を入れる事が出来た。私は、あの子を褒めてやりたいですよ。」
「..............か、つら.....さんっ、.........ぅ、..............っ.............」
どの位そこに居ただろうか、少し離れた場所には別の家族もいて、俺が床に跪いて泣く姿を見ているが、きっと自分たちと同じように悲しんでいるのだろうと思っている。
俺は、悲しいという気持ちを通り越して、むしろ桂の父親があまりにも桂にそっくりな性格なんで嬉しくさえあった。
アイツの【凛】とした潔さ。
昔、天野さんに土下座をして、自分から俺を取らないでくれと言った事を思い出す。
それ程までにまっすぐで、俺との事を【恥】とは思っていなかった。
桂はそういう男だ。
だからこそ、父親に俺との事を話したとは言えなかったんだろう。
話した結果が、距離をおかれる事になって、俺が気にするとでも思ったか。
.............ホントにバカ正直な男、..........だから、好きになった。
身体は遠く離れていても、心の中ではいつも手を取り合っていた。
目を閉じれば、アイツの目や口元や、フワフワの髪の毛一本一本まで思い出す事が出来る。
会いたい、................
桂に会いたいよ...............
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