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第113話

 とめどなく溢れる涙で前が見えなくなるが、桂のお父さんに支えられて部屋へと戻って行った俺。 「ありがとうございます.......」 ドアの前で、向き直り挨拶をする。 「いや、お礼なんて.......、一緒に待ちましょう。秀治と友田さんの事を」 そういうと、俺の肩をそっと掴んだ。 それからトントンと叩いてくれてその場から離れる。 俺は、ゆっくりとドアノブを回すと中へと入って行った。 「.......千早?!.........大丈夫?」 「......うん、大丈夫だ。.........」 泣き腫らした顔を見られるのが恥ずかしくて、俯いたまま椅子に腰かける。 アネキは、そう、というと、ベッドから起き上がって俺の方に近づいて来た。 「ここまで来て、諦めたくはないけど.........、あたしは覚悟したから。」 「覚悟?」 「そう、この先何が起こっても、あたしは慌てたり取り乱したりしないから、アンタにも心配かけないから......、だから、千早は自分の事だけ考えて。泣きたかったら泣いていいんだからね?!」 アネキが俺の頭にそっと手を置いた。 小さい頃にしてくれたみたいに、忙しい母親の代わりに、俺が寂しい時には頭を撫でてくれた。 その感触をこんなに大人になってから思い出すなんて.........。 「アネキ、.........」 ぶっきらぼうで男勝りなアネキらしい言葉を聞いて、切ないような、頼もしいような。 頭上に感じるアネキの指先で、癒されるような気がした。 しばらく目を閉じると、ゆっくり深呼吸をする。 「.....俺、アネキに言ってない事があるんだ。もちろん親父やオフクロにも。」 「....え?.........なに?」 手を止めると、俺の顔を覗き込んだ。 「俺、.........俺と桂は........、恋人同士で、.......ずっと前から、付き合っていたんだ。」 「..................」 返事に困っているのか、何も言葉はなくて。 こんな時に話してしまって、余計動揺させてしまうかもしれない。 でも、今だから言っておきたかった。桂が父親に話していたのなら、俺だって家族に知ってもらいたい。 俺と桂が本当に愛し合っていたことを分かってもらいたくなった。 「ゴメン、こんな時に.......でも、黙ったままじゃ桂に申し訳なくて。」 俺がこんな事を言っても、アネキはビクともせずに立ったまま。 「.....多分、そうじゃないかなって思ってた。........中学の時は分かんなかったけど、高校の時、なんとなくね。」 「え?!.......そうか........」 「大学生になってからは、絶対そうだって思ってたわよ。ただ、秘密にしておきたいのならそれでもいいやと思って。」 「.................」 俺の方も言葉がない。やはりバレていたんだと思うと、どこかでホッとした。 そして、それでも普通に接してくれたアネキに感謝する。 「今度はあたしが外に出てみるから、千早は謙をお願い。少し熱があるかもしれない。」 「うん、分かった。俺、おでこに貼るやつ持ってきてるし、一応熱測ったら貼っといてやるよ。」 「お願いね。」 ベッドでタオルにくるまっている謙の額に手を置いた。 汗で湿った額の髪がまとわりつく。 コイツの為にも、俺やアネキが泣いてばかりじゃダメだもんな。 でも、今日だけはゴメン。 明日からは、涙は見せないからな。

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