115 / 167
第115話
飛行機の窓から見える日本の景色が、とてつもなく空しい色に移る。
今まで、買い付けに行くたび、何度もこんな風に日本の景色を見てきたはず。
それなりにホッとした事はあったが、今回の場合は後ろ髪を引かれる思いで帰ってきたせいか、全く安堵感はない。
アネキは膝に乗った謙の頭を撫でながら、口を一文字に結び何かを決心したかのように一人頷いている。
それぞれの想いを胸に帰途につき、この先の事も分からないまま。俺たちは、ただただ家族の帰りと会社からの報告を待つばかりとなった。
「それじゃあ、お休み。今夜は実家に帰るだろう?友田さんの両親にも報告しないとな。」
俺が荷物を渡しながら言うが、アネキは謙の手を持つともう片方の手でバッグを受け取りながら、「そうなのよね。それが、今は一番辛い。向こうのご両親は、とっくに覚悟を決めているのよ。結婚する前から、未開の地へ行っていたし、いつかこんな事になるかもしれないって。あたし一人が覚悟が出来ないままだったの。」と言った。
「でも、アネキも覚悟したんだろ?」
俺が言ってやる。
「うん、覚悟出来た。あたしは、これからは謙の為に頑張るしかないもん。あの人が帰って来てくれることが一番の願いだけど、もしそうでなくても、褒めてもらえるように生きるしかないよ。」
「そうだよな、それしかないよ。俺も、桂の事を待ち続けるつもりだし、ガンバルから。」
「じゃあね、.........千早が一緒に居てくれて、心強かったよ。有難う。」
「.........うん、またな。」
アネキと別れて、俺は自分の実家に戻って行った。
花屋のシャッターは降ろされていたが、家では、オフクロたちが俺の帰りを待ち構えていた。
辛い報告をしなければいけないが、まだどこかに希望を持っている事も告げる。
それから............
一番緊張するのは、これからだと思った。
俺と桂の関係を伝えるつもりだ。
アネキには気付かれていたが、オフクロたちにはどうだったのか分からない。
桂が、どんな思いで父親に報告したのか、それは今これから、俺が経験する事になる。
ゆっくりと階段を上っていくと、リビングのドアを開けた。
「あ、お帰り。大変だったね。............塔子はあちらの家に行ったんだね?」
オフクロに言われて「うん、」と頷いた。
「電話で聞いたけど、桂くんのお父さんと会えたって。まあ、親だもの、来て当たり前なんだけどね。」
「ああ、とても感じのいい人で、俺が思ってた程薄情な人ではなかったよ。.........それに、なんて言うか........、凄く物分かりがいいっていうのか、桂の事を信頼しているのが分かった。」
「そうなんだ......。よかったわね。」
「うん、.........で、俺、話しがあるんだけど.........。」
オフクロの顔をまじまじと見ると、生唾をごくりと呑み込んだ。
ともだちにシェアしよう!