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第117話
一先ずオフクロへの報告は終えた。
残るは親父だけ.........。
案外昔気質の人だから、変わり者と言われていたって偏見の目はあるかもしれない。
それに、女好きだし.........
自分の息子がゲイだなんて知ったら、それこそショックで倒れやしないかな。
そんな不安を抱えながら、風呂へ入った後にアネキの部屋へ行った。
ちゃんと布団が用意されていて、俺の枕もちゃんと取っておいてくれた。
しばらく桂の家に居て、自分の居場所になってしまったから、こっちの家族の事はないがしろにしていたかもしれない。
それでも、ここに来れば元の家族の形になるから不思議だ。
桂も、親父さんとは家族として付き合えたのにな.........。
俺との事で、距離をおいたままになってしまった。
でも、桂の親父さんに分かってもらえて良かった。アイツが戻ったら、すぐにでも一緒にカナダへ行こう。
二人そろって、互いの両親に報告しよう。これからもずっと、二人でやっていくって事を伝えたい。
壁に掛かった絵とか、ポスターがそのままに貼られているアネキの部屋で、ベッドの上に大の字になって寝転ぶ。
天井を見つめながら、昨日までの光景を思い出した。
あの惨状を目の当たりにすると、俺たちの願いは空しいような気がしてくる。
どうか無事で。
いや、怪我はしているだろう。
でも、どうか俺たちの元に戻ってきてくれ。
そんな気持ちで横を向く。
と、部屋の入口から「千早.....、入るぞ。」という声がかかった。
ドアが開くと、親父がそっと足を入れる。
ベッドの上で肘をたてて半身を起こしたままの俺を見ると、「ビールでも飲むか?ちょっと喉がかわいたからさ、一人じゃ飲みきれないし.........」という。
「うん、.......いいよ。」
ちょっとだけためらったが、さっきオフクロに話した事が親父の耳に入ったのかと思った。
それなら、明日と言わずに今夜話してしまおう。
コップにビールを注ぎ終わると、親父が俺に手渡す。少しぎこちない気がするが、しっかり受け取るとグラスを掲げて一口飲んだ。
親父はごくごくと飲みほすと、また注いでいる。
「親父、.......俺、話したい事があったんだけど、今いいかな?」
「おぅ、.......何でも言ってくれ。聞いてやる。」
「.......実は、オフクロにはさっき話したんだけど、.......桂と俺は........、結婚してもいいってぐらいに好きあってる。」
「................」
ちょっと言い方が悪かったかな。
結婚、なんて大げさな事............。
桂が親父さんに言ったように、まねてみたんだけど.........
「お前、ホントにモテねえんだな。男に走るなんて...........、俺の息子とは思えねぇな。」
「は?.......モテるとかモテないとかの話じゃねぇよ。俺は桂を好きになったんだって。アイツも.........」
「桂くんも、こんなむさ苦しい男のどこに惚れたんだか。ま、小さい頃は母ちゃんに似て綺麗な子だねぇって言われてたけどよ。」
「......親父、そういう事は関係なくてさ。ホント、気持ち悪いって思われても仕方ないけど........、性別がどうとかって話じゃないんだ。」
「性別は大事だろ。男と女しかいないんだから。.......お前、オカマなのか?」
「は?........オカマじゃねぇし。っていうか、オカマってなに?女の格好してるのを言うのか?俺は女装したい訳じゃ無いし、桂に女みたくなってほしいとか思ってねぇし。普通でいいんだ、このまんまの俺たちが、このまんま好きあってんの。」
「.........、好きあってる、なんて.........いっちょ前の事言いやがって。........はぁ、.........」
「..........」
残念そうにため息をつく親父に、これ以上の言葉は言えなかった。
どうしたって、普通の報告じゃないんだ。嫁さん紹介する話なら良かったんだろうけど、人生変わっちまう話だもんな。
「ま、........昔からお前たちを見てりゃあ、なんとなく好きあってんのかな、なんて思ってはいたけどな。」
ポツリと親父が言った。
「.......親父.........じゃあ、.......」
「そういう事は、内緒にしてたって家族なら分かるんだよ。遠くに住んでるわけじゃないんだ、目と鼻の先で暮らすお前たちの事なんて、筒抜けだよ。」
「......,ごめん、........」
「こんな事になって話すのは、お前も辛いだろうな。.........桂くんも、.........」
親父は、残ったビールをグイッと飲みほすと、俺の背中をパンパン、と叩いて「じゃあ、お休み。ゆっくり寝ろ。」と言いながら部屋を後にした。
「おや、スミ.........」
ふぅぅぅぅ
胸を撫でおろすっていうのはこういう事かと思った。
許してくれたかどうかは分からないけど、一先ず受け止めてはもらえた。
ここから先は、どう接して来るのか分からない。でも、俺は桂を待ち続けるつもりだし、親父たちに何を言われたって、気持ちが変る事はない。
残ったビールを飲み干した俺は、ベッドにドサリと横たわった。
親父の出て行ったドアを見ると、そっと瞼を閉じるが、これから始まる新たな日々に不安を感じてしまう。
.........これで良かったんだろうか?
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