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第121話

 縁側で夜風に当たりながら、一人座ってぼんやり夜空を眺めていた。 お盆に乗せたビールとおつまみを隣に置けば、ちょっと淋しいひとり酒。 でも、今夜は月が綺麗で。 大学の頃、ここに布団を持ってきて二人で寝転びながら月見をしたっけな。 そう考えると、ずいぶん長く二人の時間を過ごせていたんだと思った。 中学の頃からずっと、俺がここへ来る事の方が多かったし、なんとなく落ち着くんだ。 じいちゃんとばあちゃんがいたけど、俺にも優しかったから、つい甘えてしまって。 今日は、庭の雑草もきれいに刈ったし、廊下も磨いた。 これから台風のやってくる時期だから、雨どいも直しておいたけど、流石に屋根までは上がれなくて。 もしかしたら雨漏りするかもな。 この家はかなり古い建物で、よく見るとあちらこちらが痛んでいる。 桂のじいさんが生まれた家だと聞いたから、もう70年以上は経っているだろう。 桂が戻ったら、ここを建て直すっていうのもいい案かも。 うちの実家の様に下を雑貨の店にして、その上に二人で暮らすとか.......。 .........なんて、ついそんな事を想像してしまう。 俺は、アネキの様に潔く覚悟が出来ないでいた。 口では覚悟をしていると言っても、何処かでは考えたくないんだ。 最後まで希望は持ち続けたくて........。 毎日毎日、心のどこかで行ったり来たりを繰り返していた。 ビールの缶に手を伸ばすが、床に置いた携帯の着信音が鳴ると視線を向けた。 ............桂の親父さんか.......... そこには、桂の父親からのメールが入っていて。 親父さんは、カナダから現地に向かうと、必ず俺の携帯に報告を入れてくれていた。 少しでも情報があがると、身体の芯がソワソワし始めて、すぐに飛んで行きたい衝動にかられる。 でも、そこに希望の光は見えなくて..........。 今夜もいつもの様に挨拶だけになるのかな、と思って開いてみた。 『お久しぶりです。 元気にしていますか? ここに来て最も残念なお知らせをする事を どうか許してください 秀治の遺体が見つかりました 二日前の朝方になりますが発見されて 本日それが秀治であると分かり いま、私はこちらに来ています 残念です 連れて帰ってやりたいのですが 既に荼毘に付されてしまい 千早くんの元へ帰るのには少し時間がかかるかと どうか、気持ちをしっかり持って 秀治の魂を見送ってやってください 明日、もう一度連絡いたします              桂 父より』 俺の片手に持った携帯を握る手が震えてきた。 感覚はないのに、離すことが出来なくて。 文面を目で追いながら、何度も読み返す。 ’遺体’と書かれている .........遺体.........? 本当に桂だと断定出来たんだろうか? 既に荼毘に付された? もう、灰になってしまったって事か? .........バカな.........ツ!! 俺の目には何も映っていないのに? この手で感触を確かめる事も出来ないのに? こんな報告を待っていたわけじゃない。 こんな....................こんな、................

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