122 / 167
第122話 第三章 おもいでになる迄...
- - - 暗い川の底で、お前が最後に見たものは何だった?
意識が途切れる前に、少しでも俺の事を思いだしただろうか?
俺は、お前の事をこんなにも愛しているのに.............
どうして俺の前から姿を消したんだ?!
ずっと帰って来るのを待っているのに...........
手を伸ばしても、その先には何もない
冷えた指先が空しく震えるだけ.......
俺も川の底で眠りたい
..........流れ着く先にお前が居てくれるのなら.............
- - 「........サン、...........コ、ガネイ......さん。大丈夫ですか?」
「..................?」
「こんな所で、何を............?」
「...................」
耳に入る声に聴き覚えがある。
そっと重い瞼を開けてみると、深紅の花びらが目に入った。
見覚えのあるソレは、俺の身体を取り囲んでいるようで。
炎の様に散りばめられた真っ赤な彼岸花の下で、俺はなぜか横たわっていた。
「小金井さん、ここで何してるんです?こんな土手で寝ていたら不審者だと思われますよ?」
「........................?」
ゆっくり声のする方に顔を向けて見る。
「.............おーはら、くん?!」
目の前には、制服を着たおーはら君が横たわる俺を覗き込んでいて、目が合うと少し引きつって笑った。
「.........俺、.........どうしてここに.............。」
「...............さあ?!」
首を傾げて不思議そうな顔をしたおーはら君の差し出した手を摑むと、ゆっくり上体を起こす。
辺りを見ると、ここは俺が高校生の時に通学路にしていた川沿いの土手だった。
深紅のじゅうたんを敷き詰めたように彼岸花が咲き誇っているが、その中で、まるで炎に焼かれるように俺は横たわっていた..........。
川を求めて彷徨い歩いたのか、靴も履かずに裸足のまま。
足の裏が傷だらけだ.........。
「............おーはら君は?......どうしてここに?」
「僕、港南工業高校の3年ですから。ここは通学に使っている道ですよ。」
「あ、......そうか、......俺も港南.......だった、けど.........」
俺たちを遠巻きにしながら、高校生たちが土手を歩いて行く。
丁度登校時間の様で、みんなにジロジロと見られて、なんとも言えない気持ちになった。
「この花、.......毒があるんですよ?!ここに居るのは良くないと思うな。」
「え?.........あ、ぁ..........そうだった。」
昔、天野さんが言っていた。
彼岸花の毒の話。..............おーはら君が同じ事を言うなんて........。
「本当にあるのか、......確かめてみるかな........」
そう言うと、俺は手元の花を掴んで口に運ぼうとした。
「ばかなッ!!!やめてください!!」
バシッと手を叩かれて、持っていた彼岸花が地面に落ちる。
「冗談はやめてくださいよ。酔っぱらっているんですか?」
俺の腕を掴んで引っ張り上げると、服についたドロをはたいてくれるが、その目は呆れているようだった。
「.........本気、.......きみが見ていてくれるなら、ここで死んだっていい。」
俺は、その場に座り込む。身体の力が抜けて、バカな事を言っている自覚はあるけど、本心でもあった。
いっそ、このまま消えてなくなりたい。
桂がこの世に居ないのなら、俺がいる意味がない。
「............何があったか知りませんけど、僕の体育館シューズ、貸しますから。その先に出たらタクシー拾えるし、帰りましょう。」
おーはら君は、デイバックの中に手を入れると白い体育館シューズを取り出す。
そうして、それを俺に履かせてくれると、手を引いて通りまで連れて行ってくれた。
相変わらず周りからはジロジロ見られているが、おーはら君は全く気にしていない様で。
手を繋いで歩く姿は、好奇の眼差しで見られていた。
彼は、通りで手を上げてタクシーを止めると、俺と一緒に車に乗り込む。
「.....おい、きみは学校、.............」と言いかけて、「三田駅の商店街の傍まで。」と、運転手に言うおーはら君を降ろせなくなった俺。
成り行きで、こんな事に巻き込んでしまったが、カレは車の中でもずっと俺と手を繋いだままだった。
それがすごく安心出来て、今はこの手に縋りたい気持ちになる。
タクシーの中では、言葉は発しないまま。
手の温もりと、時折力を込めてぎゅっと握られる事で、俺の冷えた心を温めてくれた。
ともだちにシェアしよう!