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第124話 *

 居間のテーブルに肘をついて顎を乗せると、もう片方の手で畳の目地をガリガリと擦る。 指の腹で目地の起伏をなぞると、訳もなく笑えてきた。 くッ、くくくッ............. 「どうしたんです?」 アネキに頼まれて、俺の傍にいるおーはら君が聞いてくる。 目が合うと訝し気な顔になり、じっと睨むような目をした。 「.....ごめん。気味悪かったか、急におかしくなっちゃってサ、........ 死んだ桂っていうのは、俺のおとこ。.....俺、ゲイなんだ。」 アッサリと言ってしまったが、もう隠す必要もない。 俺の家族や桂の父親も知っている事。.........なのに、当の本人がいないって.......... 俺は、畳に爪を立てると思い切り引っ掻いた。 ザリッという音がするけど、俺の爪が割れる音だった。 「テ..............痛ぇな...........。」 血が出た指を口に持って行くと、自分で吸う。 割れた爪が、俺の舌ベロに突き刺さると、そのままグッと力を入れてみた。 口の中が一瞬で鉄の味になる。なのに、そのまま爪を押し付けた。 「........小金井さん.........、やめて下さい。........ さっきから..........痛みを感じて気持ちいいですか?」 「く、ふふふ、ふふッ...........」 何を言ってるんだ?おーはら君の言ってる意味が分からない。 気持ちよくなんかないさ。 でも、痛みを感じられる俺は生きてるって事だ。 それは分かった。 「小金井さんッ!!」 側に来たおーはら君は、大きな声を出すと俺の口に入れた指を取り上げる。 「ぁ.........」 「口ン中、血だらけですよ。」 ........................ おーはら君は、そう言うと俺の頬を掴んで口を塞ぎに来る。 ................... ............... ........... 交わる唾液が鉄臭い。 舌ベロが痛い。 俺の舌に吸い付くおーはら君のベロが、傷口を確かめるように蠢く。 痛い筈なのに、それがすごく気持ちよかった。 カレの髪の毛を掴むと、グイッと後ろに引き下げた。 一瞬、俺を睨みつける。が、またすぐに吸い付いて来た。 おーはら君の顔をじっと目に焼き付けながら、キス、というにはあまりにもグロテスクな血だらけの頬に興奮する俺だった。 「ねぇ、噛んでもいい.............?」 おーはら君に耳打ちすれば、コクリと頷く。 俺は、言葉通りおーはら君の首筋に噛みつくと、そのまま畳の上に雪崩込んだ。

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