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第126話
ネオンの灯る街並みから少し外れると、閑静な住宅街に入る。
その先を進んで行くと『ここで、いいです』
助手席に座るおーはら君が、呟くようにそう言った。
俺を心配して、実家に戻れというアネキを避けるため、おーはら君を自宅まで送る事を口実に外へと出た。
普段は車の運転をしない俺。店までは歩きで充分。
だから、命の保証は出来ない。
「取り合えず、キミを無事に送り届けられてよかったよ。俺の腕も錆びてはいなかったって事だ。」
道路の脇に駐車すると言ったが、おーはら君はクスッと笑みを浮べた。
『有難うございます。でも、帰りが心配だな。.......それに、僕を送り届けたら実家に戻って来いって言われますよ、きっと。』
そういうとドアにかけた手を止める。
.........俺が何か言うのを待っているのか?
そんな風に見えたが、
「おやすみ。今日の事は悪かった。もし、訴えるんならそうしてくれ。
俺がした事は犯罪だ。まぁ、変態野郎に犯されましたって言いにくいか......
でも、.......ホント、申し訳ない。償いはさせてもらうから........。」
じっとうつ向いて言う俺に、おーはら君からの返事はないまま。
『おやすみなさい。ゆっくり寝て下さい。』
それだけ言うと、ガチャリとドアを開けて外に出た。
そのまま振り返らずに歩いて行くが、やがて一軒の2階建て家屋に入って行く。
- - ここがおじさんの家か。
外見はいたって普通の家だし、おーはら君が言うように学費をパチンコや飲み代に変えるような人間の住む所とは思えない。
暗くてしっかりは見えないが、庭木の手入れはされているようだった。
車の中からしばらく眺めていたが、これじゃあ本当に不審者だと思いエンジンをかける。
帰りの車の中で、今この瞬間も桂の事が頭から離れていない事を思い知る。
俺の車に乗るのは御免だと言って、アイツは絶対ハンドルを握って離さなかった。
...........そんなに信用なかったのかよ。
でも、結局、アイツの方が俺より先に死んじまった。あんなに慎重に運転していたのに.....。
死ぬのは御免だと言っていたのに...........。
実家の駐車場に車を着ける。
中からは、アネキとオフクロが出てきた。
「.......ちはや...........」
小さい声で、母親に名前を呼ばれる。
その一言は、俺の身体を取り巻いて包み込んでくれるようだった。
「...........オフクロ...............」
俺は母親の背中に腕を回すと抱きついた。しっかりしがみ付くように、子供の頃の様にぎゅっと抱きしめた。
言葉はなくても、震える俺の身体を支えてくれる。
家に入ると、親父は俺の背中を軽く叩く。
その手の感触で、少し癒された心地になった。
「あたしの部屋でゆっくり休みなさい。明日、また来るから.......」
「.......謙は?」
気になって聞いてみる。
「謙には伝えていないの。.......今日はお友達のお母さんが預かってくれてて、もう少ししたら迎えに行く。」
「そうか、.......そうだな。謙が知ったら自分のお父さんもって、........思うかもしれない......。」
「....................」
その晩は、オフクロが用意したおにぎりを食べた。
夜食用に作ってくれたものは、昔と変わらない味がする。
この家に居ると、何も変わっていないみたいで......
なのに、桂だけが居なくて......
おーはら君に桂の影を映して、あんな事をしてしまって、つくづく俺は馬鹿な男だ。
布団に潜り込んで膝を曲げると、そっと足の裏を撫でる。
………この痛みを忘れないでいよう。
アイツの痛みがどれ程のものかは分からないけど、せめて、俺が感じるこの痛みぐらいは覚えていようと思った。
.................桂..............かつら...........、愛してる............愛してる...............よ。
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