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第134話
街灯に照らされながら、行き交う人を縫うように歩くと、交差点で信号が赤になり立ち止まった。
俺の後ろを付いて歩くが、おーはら君は何も話さないし、俺も特に言葉は掛けなかった。
成り行きでうちへ連れて行くことになったが、あのまま帰らせたら又その辺の路地でうりをやりそうだ。
俺が目撃してしまったばかりに...........。
知らない奴なら、そのまま通り過ぎていた。面倒に巻き込まれるのは御免だ。
なのに、.......桂を思い出させる後ろ姿のせいで、放ってはおけなくなった。
「そうだ、........腹減っても食うものないかもな。コンビニ寄っていくか。」
振り向いておーはら君に聞くが、「冷蔵庫に何もないんですか?」と聞かれる。
「......まあ、残り野菜とか、ハムや玉子ぐらいはあるかも.....。」
そうはいっても、朝食用の材料ぐらいしかないはず。とても二人分の晩飯にはならない。
「うちの実家に行ってもいいんだけど、......どのみち飯は期待できないからな。弁当でも買って帰ろう。」
信号が青に変わり、前を向いて歩き出したが、急に腕を引っ張られて立ち止まる。
「.......なに?」
「僕が何か作りますから。」
おーはら君はそういうと、俺の隣に並んで歩き出した。
「........」
よく分からないが、本人がそういうのなら任せよう。
おじさんは、食事も自分で何とかするように言っていたんだろう。少しは作れるのかもな。
家に着くと、おーはら君は早速冷蔵庫の中身をチェックし出した。
台所の椅子に大きなデイパックを置くと、ジャケットを背もたれに掛けて袖捲り。
適当に、ジャガイモやニンジン、玉ねぎを取り出すと、それらを1センチ角に切ってハムやベーコンと炒める。
鍋に水を入れると、それらを固形スープの素と一緒に放り込んだ。
- あ、俺が良く作る簡単スープと一緒
そう思っていたら、そこに洗ったコメを投入。
「え?米入れるの?」と、思わず聞いた俺に、「リゾットですよ。溶けるチーズとかあるといいんだけど.....。」とおーはら君が言う。
「チーズは無いな.....。」
ちょっと残念。チーズのかかったリゾットを想像したら食べたくなった。
- 俺が作る簡単スープが大好きだと言ってくれた桂。
もう食べさせる事もないんだな、と思うとやっぱり寂しい。結局、俺の料理なんて、そのぐらいしかないんだもんな.....。
リゾットの出来る間に、ゆで卵とオニオンフライを作って皿に盛りつける。
凄く手際が良くて、本当に作り慣れているのが分かると、尚更おじさんとの同居が不憫になってきた。
俺が高校の時は、マズイ飯でも母親が作ってくれたし、文句を言えば食うな、と言われて。
それでも、楽しい食卓だったと思う。
普通だと思っていたことが、コイツには普通じゃなかったんだな.......。
一体いつから料理を作れるようになったんだろう。
「はい、出来ました。あっちで食べますか?」
「....ああ、そうだな。」
居間のテーブルに運んでいけば、向かい合ってスープ皿を覗きこむ。
それからゆっくりと、スプーンですくって口へと運んだ。
「.....うん、美味いな。.......美味いよ。」
「有難うございます。意外とお腹も膨れるでしょ?」
「ああ、充分だよ。美味しい」
俺の言葉に気を良くしたのか、おーはら君は微かな笑みを浮かべると、嬉しそうにスプーンを咥えた。
その仕草が少し子供っぽくて、俺は安心する。
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