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第145話
4月も後半になると、新しい生活にも慣れてくる頃で、おーはらは美容学校の後に天野さんの美容室でアルバイトに精を出していた。
俺は、この間の晩の事をすっかり忘れていたが、天野さんが店に来たときに気になる一言を残していった。
「千早くん、趣味が悪すぎるよ。」と。
何の事かと聞いてみたけど、「ジュンくんがカワイソ。」と一言だけ。
ジュンって・・・おーはらが何だって言うんだ?!
流石に学校の後の美容室のバイトは身体がキツイだろうけど・・・・
俺がこき使っているわけじゃないし、なんだか俺が悪者になっているようで。
「ただいまぁ~。」
「.......おかえり、飯は?」
玄関でおーはらの怠そうな声を耳にして聞いてみる。
居間の座布団を二つ折りにして、寝転んで本を読んでいた俺は、頭だけ台所に向けるとおーはらを見た。
その姿は、少し猫背気味で疲れが出ていた。
「今からする。バイトの前に天野さんがケーキくれて、ちょっと食べちゃった。小金井さんは?」
おーはらが冷蔵庫を開けると言った。
「俺は店閉めてから吉田くんとラーメン食った。」
尚も頭はおーはらに向けていて、「なに?」と聞かれ慌てて顔を戻す。
本を閉じると、むくっと起き上がりあぐらをかいた。
- 悪趣味って、どういう意味だろうか----
「そういえば、引っ越しの準備もしないと、ですね。僕の荷物はあのデイパックだけだし、あとは学校の教材だからひとまとめにしてあります。いつでも引っ越し出来るんで。」
おーはらは、スパゲティの麺を鍋に回し入れるというが、本当に少量の荷物で驚いてしまう。
「俺は・・・実家にある服はもう着ない物だから処分するし、此処にある物っていってもベッドとチェストや棚ぐらいだ。」
「じゃあ、冷蔵庫とかこういう台所のものは買うんですか?」
おーはらが聞いてきたから、使えるものは桂さんに持って行ってもいいと言われた事を伝えた。
「なら、何も買うものないですね。」と、あっけらかんとしたおーはらの言葉。
「あのさ、お前のベッド買ってやろうか?床に寝るのは布団の上げ下げが面倒じゃね?」
たまに、敷きっぱなしで出かけていることがあって聞いてみた。時間もないし大変かと思って・・・。
「いりません。そんなの部屋が狭くなるし..............、あ、でも、買ってくれるんなら思い切りデカいのがいいな。キングサイズとか。」
「は、あ?キングサイズ?!・・・・アメリカ人か!そんなデカいの余計狭くなるじゃないか。」
俺は、呆れてしまう。
「だって、どうせ寝に帰るだけだし、眠る時ぐらいゆったりしたいから。あと、大きなぬいぐるみも。」
今度は皿に盛ったスパゲッティを運びながら言う。
ぬいぐるみって・・・・・
「前に言いませんでした?僕、一人は寂しくて眠れないって・・・。」
「・・・ああ、聞いた気がする。けど、別に今は眠れているだろ?!」
「小金井さんが横に居る時だけ熟睡できるんですよ。」
そう言って俺を見た。
「・・・・・」
スパゲッティをくるくるとフォークですくい取ると、口に運びながらも上目ずかいに俺を見る。
この眼差しが・・・・・困るんだ。
身体は貸してやると言った。
だから、おーはらは時折俺のベッドに潜り込んでは好き勝手にしていく。
でも、それが一人で眠れないというだけの事なら、あの行為は無くてもいいのに、と思った。
何もしなくても、体温を感じるだけで安心して眠れる事もある。
「.......なら、キングサイズのベッド買って二人で使うか?!それなら寝室は一つでいいし、部屋数も少なくていいからな。」
立ち上がって、冷蔵庫の水を出そうとしながら言うと、
「え?マジ?いいの?・・・・うれしい!!」と、フォークを投げると俺に抱きつく。
「お、・・・オイオイ、こらっ。」
突然で、冷蔵庫のドアに挟まりながらも俺は叫んだ。
目の下には、口の周りをトマトソースで赤くしたおーはらの笑顔があった。
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