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第149話
「待ち人ですか・・・?」
「・・・え?」
「や、さっきからドアの向こうの人通りばっか見てるんで。誰か来るンすか?」
「別に・・・・そんな事ないよ。誰も来ないし。」
「そっすか。・・・・じゃ、オレ休憩行ってきまっす。」
「・・・いってら~」
店の壁に掛かった時計の針は午後4時を指していて、夕方になると学生の姿も多くみられた。
- おーはら、学校終わったかな・・・・
美容室行ったかな・・・・・
たまに、わざわざ俺の店の前を通る事があって、中には入らないがドアの所で目が合うと手を振る事があった。
昨夜は帰って来ないままで、何処へ行ったか知らないが、こんな時だからこそ店の前を平気な顔で通るんじゃないかって思って。
実は結構気にして見ていたんだ。
吉田くんに悟られるなんて・・・・・・
一日中ぼんやりとしていたようで、「小金井さん、体調良くないならオレ、明日から連休だし朝から来ますけど。」と吉田くんに気を使われる。
「あ、大丈夫。・・・・でも、頼めるならちょっと不動産屋とか行きたいから、昼までいいかな?!午後は戻って来るし。」
棚に飾ったストールを畳み直すと、吉田くんの方に目をやりながら聞いた。
「もちろんいいっすよ。ゆっくり見てきてください。」
「うん、ありがと」
再びストールを並べ変えながら、気分が沈んでいることを隠す様に笑顔で言った。
おーはらの事がこんなに気になるなんて、自分でもびっくりだが、子供だから余計に・・・
それに、・・・・・・また、うりなんてしているんじゃないかと気になるところだった。
俺が勝手に拾って連れてきただけなのに、アイツは嬉しそうにしていたから、それで十分だと思っていたんだ。
仕事が終わると、はじめママの店へ向かった。
相変わらずのこじんまりとした薄暗い店を覗くと、中には2人の客が。
大学生風の客で、はじめママが接客しているが、一人はフワフワの髪の毛で、おーはらかと思ったほど似ていた。
「いらっしゃ~い。久しぶりじゃない。」
「・・・どうも。」
俺の前に灰皿を置くと、そのゴツイ手が俺の手の甲を撫ぜる。ぞわっと身震いするのを堪えて「おーはら来た?」と聞いた。
「・・・・今頃?もう日付変わっちゃってるんだけど。・・・・夜中に来たわよ。」
「あ、・・・やっぱり?!今朝出てったのかと思ったけど、もう晩のうちに出ていったんだ?!」
なんとなく、はじめママの所に来たと聞いて安心した。
ママならおーはらを慰めてくれるだろうと、そんな風に思えて。
「で、なんで俺に黙って出てったんだ?なんか言ってなかった?」
俺がタバコに火を点けようとライターの火をかざして聞けば、フッ、とその火を吹き消されてしまった。
-----え?
「チハヤくんはそういう所がダメなのよ。ジュンくん、健気で・・・アタシ涙がでちゃう。」
と、太い指で付けまつげの束を弾く。
「・・・・健気って・・・?」
「だって、アンタの為に一生懸命ご飯作ったり洗濯したりしてさ、学校行ってバイトもやって、なのに、’身体は貸す’って・・・・何様のつもりよ!」
ママが、いつになく恐い目で俺を睨んだ。
「・・・・・そんな事、・・・・・おーはらがしたいようにしているだけだろ?!俺が強制してるわけじゃないよ。飯だって自分で買ってくるし・・・待っていなくてもいいって言ってんだ。」
俺も、ちょっと反論したくなった。ママには関係ない事だけど、俺がおーはらの事を奴隷の様に扱っているみたいで・・・。
「桂くんの事を忘れろ、なんて言わない。・・・でもね、ジュンくんの気持ちも分かってあげてよ。」
「・・・・ママ、・・・桂の事は、・・・・」
もう一度タバコに火を付けると、深く吸い込んだ。
俺の肺が、苦い煙で満たされると、思い切り吐き出す。
ふ―――っ
それからゆっくりママの目を見た。
「おーはらはママの所に居るんだな。なら、それでいいよ。アイツを預かってくれよ。」
タバコの煙を燻らせながら、俺は本気でそうして欲しいと思った。俺の傍に居ても、アイツにとってはいいことなんかない。
「チハヤくん、・・・・・悪いけど、あたしは慈善活動しない主義なの。テメぇのケツはテメぇで拭けって、そう思ってるから。」
ママの言葉は重い。
俺がおーはらを拾ってしまったのは、慈善活動だって言いたいのか・・・・?
「手に余るんなら、最初から係わらない事ね。途中で手放された子はどうすればいいのよ。酷すぎるわ、アンタ!」
そういうと、俺のオーダーは取らないまま向こうの客の方へと行ってしまった。
灰皿だけ目の前に置かれ、ポツンと残された俺は身の置き場に困る。
------なら、戻って来るように言ってくれよな!!
心の中で呟くが、向こうのママの元へは届かない。
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