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第152話

「ところで.....このコンテナボックスはなんスか?」 店の入り口に積み上げられた真っ黒のコンテナボックスをじっと見ながら、バイトの吉田くんが腕組みをして聞く。 いかにもゴツイ感じのコンテナは、収納専用の物に見えるが、俺はインテリアの一部として使おうと思った。 「これさ、タイヤなんかも仕舞っておけるハードなヤツなんだけど、部屋の中に置いたらテーブルの代わりとかベンチにもなるんだよな。」 「へぇ..........まあ、ちょっとオシャレっすね。」 吉田くんは、コンテナの質感を確かめるように触ると、俺の方に振り向きながら言った。 「だろ?!.......うちにも一個置くつもり。中には使わない季節のブランケットや毛布なんかを入れておけるしさ。」 「あああ、ソレいいっすね!うちにも一個欲しいっす。服とか押し入れに入りきらなくて、捨てる訳にもいかないし困ってたんすよ。」 「この中に入れておいて、テーブルの代わりに使ってもいいし、壁に沿って何個か置いたらベンチになるだろ?黒って色もいいしさ。吉田くん買うんなら7掛けでいいからさ、友達にもアピールしといてくれよな。」 「はいっ、もちろんス!!」 取り敢えず2~3個は売れたな。と、心の中でほくそ笑む俺。 ちょっとデカイ商品は、早めに売れないとかさばるから・・・・。狭い店の中に置いておくのは一週間か二週間以内。それ以上は場所を摂りすぎる。回転率を考えて、売れる商品をピックアップして並べる。それが俺の仕事でもある。 次に手掛ける’花カフェ’の方も、こんな具合にいけばいいんだが.......。 なにしろ水商売だ。一・二週間も、なんて悠長な事は言っていられない。残った物は捨てるしかないんだからな。 仕事が終わると、俺は資料を片手に、天野さんの店へと足を運んだ。 先日話していた内装工事の打ち合わせをする為。それと、閉店の時間だったから、バイト終わりのおーはらの顔を見れるかもと思った。案外俺は気の小さな男だ。拒否された相手の顔をまともに見るのはなんだか嫌だった。 でも、仕事にかこつけてなら見る事が出来る。 「こんちワ~っ、天野さんいますか~」 なんて、ちょっと軽いノリで店のドアを開けると中を覗いた。 「あ、いらっしゃい、千早くん久しぶり~ぃ。」と言ったのは、エリコさんで。 奥の方からわざわざ近寄って来て、俺の前に立つとニッコリ笑った。 「どうも、ご無沙汰です・・・」俺が頭を掻きながら言うと、「オーナーは先に部屋の方に行ってますって。業者の方はあと20分くらいしたらみえるそうよ。」と教えてくれる。 「ありがとうございます。じゃ、・・・・」と言って、資料を抱えたまま会釈をするが、エリコさんの後方でこちらに目をやるおーはらに気づく。 「・・・・・・・」 「・・・・・・・・・」 互いに視線は合わせたが、言葉は出て来なかった。 踵を返すと、ドアを大きく開けてくれたエリコさんに微笑んで、俺は店から出た。 後ろ髪を引かれる想いで、マンションのエントランスへ移ると、エレベーターを待つ。 「小金井さんっ!!」 大きな声で名前を呼ばれて、その声のする方に顔を向けた。 「..........おーはら............」思わず俺も、囁くように名前を呼んだ。 「あ、の....ごめんなさい。勝手に出て行って.........。え、っと、コレ、返します。」 そう言うと上着のポケットの中からカギを取り出す。 「え............?」 呆気にとられる俺は、おーはらが握ったカギを受け取る事も出来ずにいた。 「コレ、桂さんちの............もう引っ越したんですね。..............」おーはらが、俺のパーカーのポケットに鍵を突っ込んでくると言った。 その顔は、少しバツが悪そうではあるが、微笑んでもいた。無理にかもしれないが、今は何もいう事が出来なくて、笑うしかなかったのかも.............。 「元気か?」 「....はい、一応。」 「そうか、.....なら良かった。」 「..............はい、..........」 そう言ったところで、エレベーターが降りて来てドアが開く。 俺は、口元だけニコリと上げ、エレベーターへと乗り込んだ。 何もいう言葉が出て来ない。元気なおーはらの顔が見れた事で、少しだけ胸のつかえが降りたような気がした。それだけでよかった。良かったと思ったんだ......................。 いいしれない気持ちのまま、天野さんの部屋の前で立ち止まりインターフォンを押すと、直ぐにドアが開いて中へと入れてくれた。 「.....アレ?なんか、浮かない顔だなぁ。」と顔を見るなり言われて、ちょっとだけ凹む。 「そうですか?仕事の帰りですからね、疲れたのかも.......」と言って資料をテーブルの上に並べた。 「そっか、お疲れさん。」 天野さんはひと言いうと、それを手に取って見出した。 その姿を横目で追いながら、俺はパーカーのポケットに手を入れて、おーはらが渡してくれたカギを握り締める。 チャリ、という僅かな金属音が虚しく手の中に響くと、何度もそれを確かめる様に握りかえした。 ..................浮かない顔、か.............. アイツも、.............浮かない顔だったな.........

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