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第157話
洗面所の棚の上に、バスタオルとTシャツとスウェットパンツを用意する。それから真新しい下着を置いておくと、スツールの上で膝を抱えて座り煙草をふかした。
またもや俺は、余計な事をしてしまったんじゃないのか・・・・
根本的な部分で、俺はおーはらを助けてやれる自信がない。俺自身やっと自分の希望を見つけて前を向き始めたばかり。
腰に彼岸花のタトゥーを入れたからって、寂しさから逃れられるはずがない。でも、そんな気休めに縋るしかないおーはらの気持ちが哀れで..................。
タバコの煙を吐きだすと、ぐるりと首を回した。
ガチャッ---
風呂から出てきたおーはらが、「ありがとうございます。借ります・・・・。」と言ったので、「暑かったら短パン貸すけど。」と声を掛けた。
「・・・大丈夫です。」
頭を拭きながら部屋に入ると、ぐるっと室内を見廻した。
「思ったより広いですね。」そう言うとベッドに目をやる。
「・・・キングサイズはなかなか売ってないし、ここには無理だからな。」と、俺は少し笑って言った。
おーはらが覚えているかは分からないが、どうせならキングサイズのベッドを買って欲しいと言っていたんだ。
「フッ、確かに・・・」
おーはらも笑みを浮かべる。が、すぐにその目は悲しみの色を放つ。
下を向き、じっと立ったままのおーはらに、「座れよ・・・・。」と言ってスツールを指した。
ゆっくり座る姿を見ながら、俺はこの先に出す言葉を探すが見当たらない。さっきの連中の事を聞いたところで、説教でもしてやるつもりか・・・?自分の中のあいつらのイメージは悪いが、おーはらにとってはそんな事が無いのかもしれない。正義感を振りかざすつもりもないし、俺には関係のない事かもしれないと思った。
「あの、どうして僕なんかを連れて来てくれたんです?勝手に出て行ったのは僕なのに・・・・。」
辛そうな声で言われて、俺はつい眉間にシワを寄せてしまったが、「お前じゃなくても、こうしていたさ。」といった。
「・・・・そう、ですか・・・。」
「ああ、未成年のガキがあんな事してたら・・・・・いつか警察に捕まっちゃうだろ。そんなの嫌だからな。知り合いが捕まるとか・・・。」
タバコをもう一本取り出すと火を点けたが、おーはらの顔を見たら眉を下げて泣きそうな顔になっていて、俺は火を消すと立ち上がって傍に寄った。
おーはらの俯いた顔に手を伸ばすと、顎を掴んで上を向かせる。
「................?」
俺の目をじっと見つめるおーはらだったが、そのうち口角が下がると大きな瞳に涙が溢れ出した。
.........ズッ、................ズズツ...............
鼻をすすり乍ら顔を歪ませているおーはらに
「今夜はここに泊まるって、ママにメールを入れておけ。心配するからな。」と云ってやる。
「..............は、い。..........」
ズズッと鼻を鳴らすと、テーブルの上の携帯電話に手を伸ばす。
その後ろ姿を見て、少しだけ安心する俺。こうして俺の言葉を素直に聞くところは可愛い。
コイツの事はママに任せて、俺は関わらない事にしようと思っていたのに.................。
結局、俺はおーはらの手を取ってしまうんだ。
シャワーを浴びて冷蔵庫からビールを出すと、少しだけ口にする。
ママの所で飲んだ酒は完全に抜けてしまって、この状況で落ち着くためにも多少のアルコールは必要だと思った。
ダブルベッドに背中を丸めて横たわるおーはらは、俺に背を向けていたがやっぱり緊張しているのか肩が上がっていた。
布団をめくりおーはらの横に身体を滑りこませると、そっと肩を抱いてやる。
「.............」
振り返って俺を見るおーはらの瞳の奥に、戸惑いの色が見えた。
「今まで、抱いてやれなくて悪かったな。こうやって肩を抱くぐらいはしてやっても良かったのにな。」
俺はおーはらに謝る。
「..............」
「俺はさ、器用な男じゃないんだよ。桂が死んで、寂しいからって次の男に行くとか出来ないんだ。」
「..............」
「でもな、おーはらが俺の横に居てくれて救われてたんだなって、お前がいなくなって初めて分かったよ。」
「.......こ、がね、いさん............。」
「こうやって、肌が触れ合うって暖かいな。気持ちがあったかいってのかな.....?よく眠れそうだ...............」
俺の腕の中で、おーはらが泣いているのは分かったが、そのまましっかりと抱きしめていた。
暫くすると、疲れも出たのか微かな寝息をたてて目を閉じるおーはらの顔を見ながら、俺もゆっくりと瞼を閉じる。
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