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第164話
- ピンポーン・・・
その音で、おーはらが来たことが分かると、俺は静かにドアを開ける。
「おう、いらっしゃい。入って・・・」
身体を少し捻ってドアとの隙間を作ってやると、おーはらを中へ招き入れた。
「こんばんは。すみません・・・」
やけに小さくなって屈みながら部屋へとあがって行く。
「なんだよ、久々に会ったってのに・・・元気ないじゃん。」
「・・・はい、すみません。」
「すみませんって、謝ってばっかだな?!何かやらかしたのか?」
俺が天野さんにカットをしてもらいに行ったことを話すと、自分が追い出された事がバレていると分かり、おーはらは観念したように眉を下げる。その顔が子供の様で笑ってしまった。
「まさか、はじめママの部屋でうりをしていたわけじゃないだろうな。そんな事したら俺だって放り出す。」
俺が少し険しい顔で言ったから、おーはらは泣きそうな顔になる。
「そんな事してません!僕、もう’うり’はしていませんから。小金井さんに助けてもらったのが最後ですよ。ママは勘違いしているんです。」
「・・・勘違い?・・・まあ、うりを辞めたのは良かったけど・・・。じゃあ、なんで?」
ママがおーはらを追い出すなんて余程の事だろう。俺には、昔厳しいことを言ったくせに・・・
慈善活動だとかナントカ言われたんだよな。
「まあ、後でゆっくり聞いてやる。とりあえず寿司食えよ。」
「あ、・・・はい。」
テーブルに乗せられた寿司の桶を見ると、一気におーはらの顔が緩んだ。心底食べたいと思っていたんだろう、早速舌でぺろりと唇を舐める。
「あ、僕お茶入れます。暖かいのありますよね?」
「ああ、そこのレンジの上の棚に・・・・」
そう言って、指をさすとすぐにキッチンへ行く。レンジの上のホコリがそのままだったことを思い出して、見られるのが恥ずかしかった。
「・・・忙しいんですね。小金井さん、お店何件やるつもりですか?」
そう聞かれ、掃除をする暇もないと思われたんだな、と思った。
「そこそこ忙しいけど、まあ、掃除が出来ない程じゃないんだ。コレは、ただの無精。」
レンジの上をキッチンペーパーで擦ると言った。
茶葉の入った容器をおーはらに渡すと、ポットに水を入れてコンロにかける。
その間、冷蔵庫に寄り掛かって立つと、お湯が沸くサマをじっと見ていた。
お茶を入れて早速寿司に手を付ける。俺が一気にまぐろを口に放り込むと、おーはらは甘エビを頬張った。
「う、美味し~ぃ、久しぶりの寿司~ぃ、嬉しいな。」
美味そうな顔で笑って言う。その顔は悩みなんかなさそうなんだけど・・・
「・・・男を連れ込んで叱られたのか?ママってそんなキャラだっけ?」
満足した俺は、腹をさすりながらおーはらに聞いてみる。空腹が満たされると、やっと人の話を聞く気になった。
「男、・・・・ってのは違って・・・、小金井さん、スミトってやつと知り合いですよね?!」
「え?・・・・・スミト?」
一瞬誰の事かと思ったら・・・、前に遊んでエッチした子だ。確かスミトって可愛い名前だった。
「う、ん。知ってるけど・・・おーはらの知り合い?まさかな・・・」
とはいっても、この界隈でゲイの集まるところは限られている。はじめママに気を使って別の店でナンパしたけど、筒抜けなのかもしれないと思った。
「小金井さんはウソつきだよ。僕にはあんな事を言っておきながら、ちゃっかりスミトとヤっちゃってるんだもん。なんで僕はダメでスミトはいいんだ!!」
急に、おーはらが怒り出した。
「は?あんな事って、・・・何か言ったかな?」
「僕には身体を貸すだけって、・・・・・なのに、スミトの事はちゃんと抱いたんだ・・・」
「ぁ、・・・・・・」
ちょっとバツが悪かった。ママにも「何様のつもり?!」って叱られた事を思い出す。
「僕が追い出されたのは、元はと言えば小金井さんのせいなんですからね!責任とってほしい。」
「え?」
おーはらが、俺の座るソファーに雪崩込んでくるとしがみ付く。掴まれた腕は、結構痛い。
こんなに力があったんだな・・・
でも、全くなんの事か分からない俺は、そのまま動けずにいた。
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