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episode.3-7

「永世中立国とは体良く言ったものです。漁夫の利を狙う半端者が…君たちのポリシーは非常に不愉快だ」 オセロ然りチェス然り。白黒付けたがる人間は、何処にでも居るものだ。 本音は其処か。孝心会の根回しにキレたのでない、どうも端からRICに目くじらを立てていた。 「どうせ此処で分からせた所で、お宅の様な軟派者はコロコロ寝返る。そういう手合が脚を引っ張るんです」 ザウアーのマズルが真っ直ぐ本郷を向いた。 照星と照門が綺麗に重なる。額に死を突き付けられ、何を言うかと思えば。 「待った」 当然の静止に、幸田は鼻で笑った。 ただ続いた言葉は、末端も含め想定外だった。 「彼処に居る詐欺師はな、勝手に付いてきて正直雇った覚えもないんだ。先に追い出してくれ」 俺のことか。反応が遅れつつ、萱島は内容に鼻白む。 此処に来て庇うかこの男。 「はっ、場を見られたのではねえ…おいそれと」 「…共謀しませんか組長」 其処へ便乗し、出し抜けに萱島も遮った。生ゴミを見るような目で幸田が発言主を振り返った。 「損はしませんよ。生かして使う術をお伝えしましょう」 「何?」 「…この男はRICの参謀です、弱みを握れば会社を乗っ取ったも同然。銀行の金も使い放題、おまけに彼方此方のお大臣の内部事情まで持ってんだ」 殺すの活かすの天秤にかけてみろ。尻餅をつく。 萱島は眼光を鋭くしたが、幸田の面は冷めたままだ。 「――…私はねえ、嫌いなんですよ」 能面の様な面に2人が閉口した。 「本郷くん、君みたいな潔癖な子。道徳的で、あまりに真っ当で…良い家庭に育ったんでしょう」 私情がいっぱい入って来た。 まあ多少同意する面もあるが。いよいよ人差し指へ力が篭もる。 「しかもそんな綺麗な顔して、下賤な者の事情なんて知る筈がない…腹立たしい、只管に」 いやあ彼もそれなりに苦労している訳で。 萱島が弁護を挟む余地もなく、幸田はカッと目を見開いた。 不味い。 引き抜いたCZを振り被る。 構えが遅過ぎる。奴とは距離が違うにも関わらず。 (間に合わない) 鼓膜の横で直に心臓が喚いた。 背筋が寒い。刹那で照準を合わせつつ、計算した萱島はコマ送りの光景に戦慄した。 (クソっ、また、) …また? 勝手な既視感に驚く。 またとは何だ、初回は何処だ。 混乱と焦燥に呑まれる。直後、畳の上へ何かが滑り落ちた。 カシャン。銃声でない。 幸田が拳銃を取り落とした、甚く簡素な音で場が止まる。 原因の把握に努め、全員が視線を注いだ。 そして漸く状況を認識し、絶句した。 黙って凍った幸田の首から、凄まじい勢いで鮮血が噴き上げていた。 白い天井を塗りあげ、瞬く間に飽和させ。 壁や天井に跳ね返っては雫となり、そのまま自身の上から雨の如く降り注ぐ。 「……ひっ」 体内の血が、残らず一掃されたのではないかと感じた。 それ程とんでもない量だった。 人間、こんな惨状をつくり出せるのか。 固まっていた一同の目が、軋みながら犯人の方角を向く。 「ありがとう」 この世でない場所を見て。 「俺を愛してくれて」 幸田の懐から奪ったドスを手に、身の毛のよだつ笑みを出す。 彼を見て、全員が強制的に連想するものがあった。 死だ。 目前に居るのはタナトスの概念その物だ。 反撃どころか逃げる考えも奪われ、赤い部屋に佇む。 異様な情景だった。 一連を見送った萱島は、都市伝説の正体に震撼した。 「…スラッシャー」 まさか。最も相反する存在と結び付くのか。 本郷義世。 彼が時価数千万を叩き出す、殺しの芸術家などと。 纏う空気は別人だ。 狂気じみつつ氷の様に冷めた、完全なるサイコパスの様相。 (…誰がクソ変態だと) 微塵も人の事を言えない。 しかしどーやったらアレがこうなるのか。本当に溜め込み型で頭がイカれて、ぷっつんしたのか。 考え込んでいたらこの部屋、余すところ無く血塗れになっていた。グロ映画極まる。 自身は綺麗なままやってくる男を、萱島は無意識に警戒して待ち受けた。

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