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episode.4-8
さっさと上辺だけ付き合って帰るつもりだった。それが何だ。
ずるずる深部へ踏み込んでいる。
ぐったり鈍い痛みを感じていると、脇に投げていた携帯が鳴った。
理事長の件か。億劫ながら手繰り寄せ、メールを開いた。
“至急来い”
ふざけろ。こちとら大腿にトンネル工事したばかりだ。
ところが続いた文面を見て、萱島は痛みも何処かへ飛び起きていた。
「孝心会の組長が…死んだ?」
液晶に齧り付く。どうりで最近姿を見ないと思ったら、危篤状態だったのか。
しかし総帥がご臨終だからと、下の人間まで呼び出してどうする。死んだのは昨日で、もう葬式なのか。
“P2のエントランスに居る”
病院か。今だったらしい。
ならば尚更意味が分からない。自分が行ってどうなる。
睨め付けていたら、今度は携帯が着信に震えた。
何だ何だ。致し方なく応答するや、大城の汚い方言が流れ込んできた。
「せや、訃報はホンマや。何処で茶しばいとるにせよ、急いだらんかい」
病室を後目に、大城はトイレで声を潜めていた。
いの一番に萱島へ電話を繋げていたが、正直自身もまったく状況を把握していなかった。
孝心会のトップが死んだ。
先程病室で医者に聞いた。
年齢も考慮して、それ自体は飲み込める。
問題なのは死因だった。
「…来たら詳しい言うけどな、お前RICに残れ」
電話の相手は不機嫌だ。それはそうだ。まるで話の回路が繋がらないのだから。
「其処で調査せえ、例のシャブの専売組織や。理事長はあの手この手で吐かしとるけどな、なんやあのボンボン…大して情報も持っとらんのや」
頭の回転だけは早い詐欺師だ。突然話を戻せば、その関連性を推測し出した。
そして核心を突く。
大城は未だ答えることはせず、兎に角早く戻るよう発破をかけた。
「何ィ?チャカで撃たれたァ…?何処にお前、バケモンにチャカ当てる人間がおるんじゃ…」
トイレに呆れた声が響く。その出入り口を背に、静かに聞き耳を立てる人間が居た。
「兎に角此処には地主の目が張り巡らされとんや。枠場の時もいきなり湧いてきよったでな…電話では言われへん」
通話を切る気配を察し、聞き耳を立てていた青年…戸和は影の様にその場を離れた。
必要な情報は拾った。
RICが調査に乗り出す前に、報告に動かねば。
まさか孝心会の頭が薬に手を出していたとは。
(どいつも脳が溶けてやがる)
いずれ提供元も、自分の立場も明るみに出る。
見たことか。もう2年と持たず、瓦解が始まっていた。
計画が露呈して、矛が向く先を予測した。
青年を悪寒が刺す。制服から煙草を探り当て、駐車場へと先を急いだ。
どうすれば。
脳裏で何度も同じ計算を繰り返す。自分の脳も、たかが知れている。
どうすれば、あの男を救える。
迎え撃つ気配に面を上げる。
戸和の行く手を遮り、武装した一団が待ち構えていた。
「――よう監査官」
無言で視線を交わす。枠場の駐車場を勝手に焼いた件で、始末に来たらしかった。
「偉くなったつもりか、未成年のガキが勝手にやってくれたな」
「何の用だ」
「お前が枠場を粛清したお陰で、奴ら増々薬の取引を敬遠したそうじゃないか。計画の脚を引っ張りやがって」
手元を見れば、誰も彼もサイレンサー付きの銃を抱いている。こいつらは何を持って、その計画に賛同しているのだろうか。
「孝心会の頭が薬で死んだ」
「…は?」
「俺が邪魔しなくとも終いだな、精々後の就職先を考えてろ」
「何…その話は事実か?だとしたら…」
「おい、今はどうでも良い。こいつを殺るのが先だ」
人気が無いのを確認して、1人が銃口を向け進み出た。また鼻の先だけ考える。
目を眇め、戸和は拳銃ごと相手の顔面を蹴り上げた。
「――…がっ、」
「…!この…!早く撃て!!」
全員殺すか。
立場は不味くなるどころか、それこそ公然の死刑囚になるが。
別に犯罪者になろうが、手足が動けばそれで良い。
元より短い命だ。役目に投じる。
問題なのは、P2内部に武器が持ち込めなかった事だ。
流石にアサルトライフル5人は辛い。
一端策を練るかと背後に飛んだが。
「…あ」
敵が急にてんで別な方を見た。
周りもそれに引き摺られ、視線を明後日に向けた。
まさか。
戸和が倣って振り返る。
「撃つな!全員銃を仕舞え!」
リーダー格の怒号が緊張を叩き割った。全員が武装解除し、殺気とともに刃先を押し込める。
第三者の出現で場が一変した。
一団は青ざめて整列し、無抵抗を示して彼を出迎えた。
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