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episode.9-8
「何だあのヘリは…」
2機は加速して舞い戻り、1機のヘリを護る様に並走している。
黒いブラックホーク。しかし無論帝命製薬の物でない。
荒れ狂う暴風の中、ヘリの機体はキャビンを開け内部を見せていた。
スキッドに脚を掛けた男が手前の戦闘機へ手を翳す。
双眼鏡の先で確かに見えた。
彼らへ向かって腕を広げ、端的な手信号を送る。そして最後に協力者の友軍へ、敬礼を構えた。
――RICの実動隊を束ねる、海兵隊上がりの金髪の男が。
「RIC…!アイツら何が中立だコケにしやがって…!!」
歯を剥き憤怒しようが、空駆ける鳥を傍観する他無かった。
3機は帝命製薬の対空砲に襲われるも、綺麗にその間を擦り抜けてゆく。
色彩だけで見れば綺羅びやかな空間だった。
光が踊り、恰もパレードの如き佳景。
天高くから入り乱れる地上を俯瞰する。
寝屋川は何時もの通りM4を肩に掛け、隣の男へ声を張り上げた。
「おい直に降りるぞ。書類は持っただろうな」
「勿論だ、サー」
悠長に脚を組んだ神崎が笑む。
RICはこの雇用主の命令通り、あくまで仲裁として渦中へ突っ込んでいた。
着陸予定は本館へ隣接した研究棟だ。
GPS探知の結果、其処に2人の目標が居ると判明している。
「早々と終わらそう、随分予定が押してる」
「これでも最短だ」
「…まさか数時間でFA-18を用意してくれるとは思わなかった、ファルージャの英雄は最強だな」
運転席から無線へ合図が入った。
間もなく屋上へ到着する。両者は荷物を肩に、ドア枠へと手を掛けた。
「行くぞ、覚悟を決めろ」
「死地を潜る覚悟か?」
「いいやまさか」
研究棟の地面が近付いた。ヘリが速度を落とし、空中でホバリングを開始する。
「道は幾らでも開いてやる、お前が引導を渡せ」
先立って寝屋川がスキッドを蹴った。
続いた影共々、真夜中の屋上へ降り立った。
旅客を降ろしたブラックホークは高度を上げ、再び雲の合間へと消えていった。
『――研究塔屋上へ侵入者、C-11並びに12、13小隊へ出動要請』
「おいあの戦闘機は失せたのか」
「海上で旋回中だ。未だ出るな、帝命製薬がヘリ出しゃあやり合いになる」
ヘリでマッハ1級に太刀打ち出来るとは思い難い。
一帯が手をこまねく中、大城は車間を潜り、先鋒の急停止で発生した渋滞を解消しようと躍起だった。
後続はゲート数百メートル手前で足留めされ、先頭は後退出来ず空襲の危険に晒される。
連中撃ってこないが、この塊では良い的だった。
「…ええいしゃあない、一端誘導して搬入口だけでも確保せえ!分散して行かさんと、頭から狙い撃ちじゃ…」
ひゅっと真横を風が通り抜けた。
反射的に首を捻った先、2つの人影が矢の如く車上を突っ切って行く。
「か、やしま…」
驚愕に息を漏らした頃には、もう跡形も無い。
数名はその姿にざわめいたが、混乱の間に彼らは本館の方角へ消失した。
隣のもう1人は黒髪だった。
確証は無いが、状況から考えてRICのNo.2か。
「あの金の虫が…親裏切りよったな」
幾ら唸ろうと全てが後手だ。しかし奴ら本館へ生身で向かったとして、一体何の用事があると言う。
「若頭!向こうにRICが乗ってた車種が転がってました」
「はあ…ほうけ、質屋入れたれや。ごっつい儲かるわ」
無論冗談なれど。
闇夜に光るメルセデスは、確かに換算すれば垂涎ものだった。
ゲートを覆う隊列から離れた草陰、車体は月明かりに上質な光沢を放っていた。
打ち捨てられた箱は無論空の筈だ。
ところが後方、矢庭にトランクがカタカタと揺れ始めた。
「…、うーっ」
次いで微かな呻きが漏れる。
内側から何者かがトランクを開けようと奮闘していた。
程なくして鍵の存在に気付いたのか、犯人はどうにか隙間から後部席へ転がり込んだ。
「いてっ」
打ちつけた頭を庇いつつ、少年はそうっとドアを押し開いて外の世界を伺う。
ゲートからそう遠くない距離、視界には眩む様な光が広がり、夥しい数のエンジン音が腹の底まで響いていた。
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