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Epilogue - Egoist War -1

『号外:郊外に浮かぶ犯罪巨島、実態は国営研究施設か』 『政府、数千億投入した非人道兵器開発』 『死者推定500人超、歴史的大罪を暴露』 “未曾有の国民虐殺” “よもや日本政府、秘密裏に大量破壊兵器プロジェクト” 朝食で広げた新聞、 慌てて繋いだテレビのチャンネル、 会社へ急ぐ者が見上げた屋外ビジョン、 ありふれたを超え、覆い囲むメディアがひとつのトピックで街を染め上げる。 誰の目にも触れ、何処へ行こうとも触れ。 サブリミナルで民衆の体内に根付き、口を開けば同じ話題が水をやる。 すくすくと育つ不信の芽。 加えてマスコミは攻撃的な言葉を濫用し、過剰な不安を焚き付けた。 まるで対岸の火事を喜ぶ様に。 まったく自分事にも関わらず。 目先の利益に舌を垂れ、滅べとばかりに自国の不祥事を罵った。 『――…すべての事柄に関して現在確認中であります。報道されております情報は、一切憶測に過ぎません。決して皆様公式の発表をお待ち頂き、流されぬよう』 寝屋川は不穏な面構えのニュースを眺めた。 これまで何度も、何度も繰り返したデジャヴだった。 あと数年もすれば砂漠を焦がしたあの大戦の如く、人々の記憶からは薄れる。 形ばかりの教訓を考えた後、教科書に一行でも載れば良い方だ。 『唯一申し上げられる事は、あの湾岸施設は帝命製薬の私有地です。国営では御座いません。しかし大鷹特命大臣が関与していた可能性が有り、事情聴取並びに証人喚問を行っています』 些少な言い間違いだろうが噛み付かれる。 緊張に引き攣る顔を見かね、寝屋川は単調な報道の電源を切った。 国は無論、大鷹を切る方向で動く。 課題は如何に全責任を擦り付けるか。 哀れだ、と思わない訳じゃない。 但しそれも因果応報だった。 退屈なロッキングチェアから立ち上がり、寝屋川は仕事に戻るべくジャケットを羽織った。 部屋の外には神崎が控え、並んで歩いては今後の動向を相談し始めた。 「移転先を決めなきゃならない。島の消失は無いにしても、住宅地を撤去して当分は閉鎖される。今でも十分鎖国的だが」 「俺はこっちの土地事情なんざ知らねえが…今の顧客を引き継ぐなら、関東近辺に残るべきだろ」 ITが普及しようが、結局この国のビジネスは対面を要する。 欠伸をした隣で、雇用主はそれもそうかと乗っかった。 「…どうせこっちにも暫く監視が付くだろうしな。いっそ近辺に居てやるか」 「移転もそうだがお前、また空きを埋めなきゃならねえぞ」 牧が去った。戸和が去った。 千葉は未だ病院と梯子だ。 そして測るに、もう一人。 移転作業も長引けば、当面仕事は切る必要がある。 「その件だが、一端全員を解雇しようかと」 寝屋川の片眉が吊り上がった。 いつも突拍子も無い人間だが、今日は之繞を掛けていた。 「本部は此処でメンバーを解散するつもりだ。勿論向こうの意向も聞くから、千葉には先に話しておいた」 「…渉は」 「何、アイツ?」 的外れと言わんばかりに、神崎が肩を竦める。 「アイツが一番強いんだよ、周りが気を揉み過ぎなだけで」 あの内戦から一夜明け、漸くお役人が到着してのち、零区の規制封鎖が始まった。 橋はゲートが敷設され、警察や自衛官の車輌が埋め尽くす。 入出国は住民でも困難を極め、増々不便さに苦い面をした。 そもそも「零区」とは正式名称でない。 地図の何処にも無い場所として、半ば自虐的につけた唯の通称だ。 それが連日、トップニュースに踊る羽目になってしまった。 アンダーグラウンドの蓋を開けられた気分で、どいつもとばっちりの中傷に疲弊していた。 表に出てはいけなかった。 この計画も、零区の存在も、巣食う住人達も。 必要悪として床下に蠢く。裏機構の実態は、真っ当な人間には余りに理解し難いものだった。 「――今朝、神崎社長から通達があった。本部はこの機に解散し、縮小移転するそうだ」 既に幾度と頭で反芻したにも関わらず。 書面を握り締めた千葉は、相手の顔も見れず言伝を読んでいた。 「希望があれば、再就職までの生活費は保証する。後は全て、書類に書いてある。質問がある奴は…」 副主任の文言は、其処で途切れてしまった。 自責に追い詰められた指が、カタカタと小刻みに揺れる。 勝手に顔を作り変えた。 勝手に声を、人となりを。過去から何から何を作り変え、 人生を買い取ったというのに。 それを今、無責任に放り出そうとしている。 18才の彼には耐え難い重みに、続きが繋げなくなっていた。

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