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第1―7話

この執拗なやり方に羽鳥は腹を立てた。 手荒く押し入れを開け放して言った。 「あなたは何を勘違いしているのですか。 あれほど説明もしているのに押し入れへ入って戸を閉めるなどとは人を侮辱するのも甚だしい。 それほど信用出来ない家へなぜ逃げ込んで来たのですか。 それは人を愚弄し私の人格に不当な恥を与え、まるであなたが何か被害者のようではありませんか。 茶番もいい加減にしたまえ」 けれどもその言葉の意味もこの千秋には理解する能力すらも無いのだと思うと、これくらい張り合いのない馬鹿馬鹿しさもないもので、千秋の横っ面を殴りつけてさっさと眠る方が何より気がきいていると羽鳥は思うのだった。 すると千秋は妙に割り切れぬ顔付きをして、何か口の中でブツブツ言っている。 俺は帰りたい、俺は来なければよかった、という意味の言葉であるらしい。 「でも俺はもう帰るところがなくなったから」 と言うので、その言葉には羽鳥もさすがに胸をつかれて、 「だから、安心してここで一夜を明かしたらいいでしょう。 私が悪意を持たないのに、まるで被害者のような思い上がったことをするから腹を立てただけのことです。 押し入れの中などに入らずに布団の中でおやすみなさい」 と羽鳥が言うと、千秋は羽鳥を見つめて何か早口にブツブツ言う。 「え?何ですか」 そして羽鳥は飛び上がるほど驚いた。 なぜなら千秋のブツブツの中から、 「俺はあなたに嫌われていますから」 という一言がハッキリ聞き取れたからである。 「え、なんですって?」 羽鳥が思わず目を見開いて訊き返すと、千秋の顔は悄然として、俺は来なければよかった、俺は嫌われている、俺はそう思っていなかった、という意味のことをくどくどと言い、そしてあらぬ一ヶ所を見つめて放心してしまった。 羽鳥は初めて了解した。

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