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ピンチ!
「うみ。すいません、待たせてしまって」
「謙紫さん!大丈夫です。私、さっき来たばかりなので」
今日は、付き合って4ヶ月目の記念のデートだった。いまだに海星は、謙紫に本当のことを伝えられていない。
バレる前に、自分の口から伝えようと思うのだが言えないのだ。もし自分で暴露して、この幸せが壊れたらどうしようと思うのだ。
最初から、いつ崩れてもおかしくない“偽り”の上で成り立っている関係だと分かっている。けれども思ってしまう。
この幸せが、自分が死ぬまで続けばいいと。
「うみ?浮かない顔してどうしました?」
「はぇ!?あの、えっと、あ!その、大学の授業でちょっと分からないところが、」
「そうなんですか。では、また時間を見つけて一緒に勉強しましょう」
「はい!私、謙紫さんと一緒に勉強するの大好きです。この前一緒に勉強した時のノート、友達にも人気なんですよ。分かりやすいって」
「そうですか。でも、デート中に他の人の話はやめてください。僕が嫉妬で狂いそうです」
そう言った謙紫は、少し子供っぽく唇を尖らせて。そこがまた可愛く思えて。海星は、幸せそうに笑った。そんな海星を見て、謙紫も笑う。
偽りの上に成り立つ関係だが、確かにこの2人の間には幸せしかなかった。
「謙紫さん!!」
謙紫と海星が、デートをしている時だった。後ろから謙紫を呼ぶ声がした。2人が同時に振り向くと、少し離れた場所から走ってくる小柄な男性。謙紫も、そして海星も見覚えのある人物だった。
「……見原社長の息子さんですね」
「もう!太陽って呼んでくださいって前も言ったじゃないですか!」
「いえ。そう言うわけにもいきませんので」
走ってきた人物、見原太陽は謙紫の会社の取引先の息子らしい。会社で社長をしている謙紫は、何度か会ったことがあるのだろう。だが、あまりかかわり合いたくないらしい。謙紫は一歩下がった感じで、言い寄ってくる太陽をあしらっていた。
そして海星にとって太陽は、最悪の人物であった。
「謙紫さん。これから一緒にご飯でもどうですか?」
「すみません。今、恋人とデート中なので食事はまた見原社長を交えてからにしましょう」
「え?これが彼女?」
太陽が、ジッと海星を見つめる。太陽の視線から逃れるように顔を背けるが無理だったらしい。太陽の唇が、嫌な感じで歪んだ。
「ちょっと。そこの平凡。こっち来てよ」
4ヶ月記念のデートの次の日、ついに来たかと海星は覚悟を決める。
振り向きたくない心に鞭を打って、ゆっくりと振り向く。
海星の後ろにたっていたのは、昨日会った太陽であった。
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