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ぷ、プロポーズ!?
「あんたさ、何で平凡のくせして謙紫さんのそばにいんの?しかも似合わない女装とかしてさ!」
「あ、」
「ほんと、最悪なんだけど」
大学の、あまり人が来ない講義室の中で、海星は太陽にいろいろと言われていた。やはり、謙紫と女装をして付き合っているのがバレていたらしい。
謙紫が女装した海星のことをうみと呼んでいたし、男だと伝えていないことも気づいているのだろう。脅すようなことを言ってきた。
「あんたが男だってばらしてほしくなかったら、謙紫さんと別れて」
「っ、」
「1週間後、別れてなかったら謙紫さんにばらすから」
太陽はそれだけ言うと、講義室を出ていった。
1人残された海星にあまり時間は残されていない。1週間。それまでに別れるか、それとも自分の口から本当のことを言うかしないと、太陽にばらされてしまう。
それだけは嫌だった。
ばらすにしても、自分の口から伝えたいのだ。
「……………きめなきゃ、おれ」
キュウっと胸が締め付けられて、自然と涙が溢れていた。
太陽との約束の1週間まで、あと残り3日しかない。けれど、海星はまだ自分で伝えられていなかった。
「どうかしましたか?最近、元気がないみたいですけど」
「………何でもないので、大丈夫です謙紫さん」
ニコリと海星は笑うが、以前のような嬉しそうな笑みではない。どこか疲れているが、謙紫に心配をかけないようにと無理をしている。謙紫には、それが見てとるように分かった。
だからこそ、海星を元気つけようと謙紫はとんでもないことを言い放った。居酒屋で、たくさん人がいる中でだ。
海星も、もちろん他のお客さんも口を開けて驚いていた。中には、指笛を吹いて囃し立てる人も。
そんな皆を驚かせた、謙紫の一言とは。
「うみ。僕と結婚してください」
海星の手を握って、そして自分は跪いてその言葉を言い放った。ちょいとシリアスな雰囲気だったと思うのに、急に何っ!?と海星は思った。
でもどうやら謙紫は本気らしい。
愛しいというように、頬を緩ませた状態で海星の手の甲を自分の額に当て、薬指にキスを落とした。
「えっと、その、急にどうしたんですか?」
「うみを元気つけようと思ったんですよ。それに、結婚したら話してくれると思ったんです」
うみが抱えている不安とか、苦しみとかを。夫婦になったら、隠さずに見せてくれると思ったんですよ。
「けんしさん、」
「僕は、うみの苦しみや悲しみや不安を一緒に背負いたいんです。うみのことが何よりも、誰よりも大切なんですよ」
「っ、たしも、けんしさんがいちばんたいせつで、すっ」
「じゃあ、プロポーズ受けてくれますね」
海星は泣きながら頷いていた。
「では、明日にでも結婚式をあげましょう。大丈夫、教会を貸しきりにしますから。2人だけで式をやりましょうね」
謙紫の言葉に、海星の涙が引っ込んだ。
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