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答え:僕は――――――。
「ちがうんです、けんしさん」
「ん?」
“私は、いえ、俺はうみじゃない”
ウェディングドレスを抱き締めながら、海星は泣いていた。泣きながら、自分はうみじゃないと叫んだ。
本当は男で、女でもなくて。罰ゲームで女装して、イケメンの彼氏を見つけて付き合って。謙紫さんは、イケメンというより美形だけど。でも俺、女じゃないけど、うみじゃないけど。本当に謙紫さんのことが大好きで。
「騙しててごめんなさい。ずっとずっと、言えなくてごめんなさい。でも俺、本当に大好きなんです、謙紫さんが。本当に、ほんとうにっ」
海星は、怖くて謙紫の顔を見られなかった。だから、どんな表情をしているか分からない。自分がしゃべっている間、謙紫は口を挟むことはしなかった。だからこそ、恐怖がどんどん増していく。
早く何か言って、何でもいいから。早くこの恐怖から解放してほしい。
その時だ。
「全部、知っていましたようみ。いえ、海星と呼んだ方がいいでしょうか」
「え、」
海星が顔をあげた。
涙に濡れて、ドロドロになっている海星の顔を見て謙紫は声をあげて笑った。
「その、ありがとうございます」
「いいえ。メイクもキレイに落としてきましたか?」
「はい。謙紫さんがいろいろと用意してくれたおかげで、キレイになりました」
あのあと、さらに泣き出した海星を謙紫が必死に泣き止ませ、メイク落としのシートと男性用の服を渡し、1人になれる時間を少しつくってあげた。
そして落ち着いて戻ってきた海星を、謙紫はギュッと抱き締めた。
「実は言うとですね、海星が男性というのは初めてカフェの時間を過ごした時から気づいてましたよ」
「え!?」
「気づいていないかもしれないんですが、最初の方で自分のことを“おれ”と言っていましたので、」
「……………うそっ!?」
謙紫は、うみが男と気づいていながら付き合って一緒に過ごしていたのだ。いつ、自分は男だと言ってくれるのか待っていたのだ。
しかし、最近になって様子がおかしい。だから急にプロポーズをして、急に結婚式をあげようと言ってきたのだ。
「急なことが起きたら、言ってくれると思ったんですよ」
「それに俺は、まんまと嵌められたわけですか」
「そういうことです。ウェディングドレスもほら、サイズが全然違いすぎますよね」
謙紫に立ってと言われ、首をかしげながら立ち上がる。そしてサイズあわせをするように、海星の体にウェディングドレスを当てた。
そして気づいた。
どう見ても、ウェディングドレスは自分よりも2サイズぐらい大きいと。
「本当だ。俺よりも大きい、」
「慌てて準備しましたから。そろそろ本当の海星と付き合いをしたいと思っていましたから」
「けんしさん、」
「これで、海星が僕に隠していることは何もありませんね」
「は、いっ」
「なので、これからも僕と付き合ってくれますか?そして時間をかけて中を深めて、そして結婚しましょう」
居酒屋の時みたいに、跪いて海星の手を取った。
「海星。返事を聞かせてください」
優しく、海星の手の甲にキスを落としていく。そして。
「っ、はい。こんな俺ですけど、よろしくお願いします」
海星の答えを聞くと、謙紫は顔を近づけて唇に優しいキスを落とした。
END
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