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第2話
「おい待てコラ! 少しは俺の言うことを……くそっ、抜けないぃ……!」
下半身どころか胸元まですっぽり嵌まってしまい、なかなか抜け出すことができない。おまけに足下は崩れやすい土なので、蟻地獄のようにズルズル身体が落ちていってしまった。
「ちょ……やべっ、師匠! 助けてくださいぃ……!」
フローリングにしがみつきながら叫んだら、隣の部屋から銀髪の青年がやってきた。
「ジェームズ……また落とし穴に引っ掛かったのかい?」
「あ、師匠!」
魔法使い・リデルがこちらに歩いてくる。
すらりとした美しい男性で、落ち着いた大人の雰囲気を漂わせていた。白いドレープシャツと黒いタイトパンツというシンプルな格好だったが、スタイルがいいので、とても華やかに見える。
彼は小脇に抱えていた分厚い魔導書をテーブルに置き、穴の側にしゃがみ込んだ。
「やれやれ……きみもアビーも懲りないねぇ」
差し伸べられた手を掴み、ぐいっと引き上げてもらう。胸から下が土まみれになり、腰に巻いていたエプロンもすっかり汚れてしまっていた。
リデルに作ってもらったお気に入りのエプロンだったのに!
「あーくそ! アビーのやつ、どうしてくれんだよ!」
「まあ、エプロンは洗えば元に戻るでしょう。それよりも……」
リデルがジェームズの頭に手をかざした。
肌に触れる数センチのところで止まり、ふわりと手のひらをすべらせていく。すると、スープがかかってヒリヒリしていた部分が瞬く間に鎮まっていった。
頬や顎、首元まで手をすべらせたところで、リデルはようやく手を引っ込めた。
「これで火傷は治ったかな」
「あ、はい……ありがとうございます。すいません、いつもお手数かけてしまって」
「……まあ、アビーの悪戯っぷりは今に始まったことじゃないからね……」
「そうなんス。最近は特に言うことを聞かなくなってきて。反抗期っスかね?」
「五歳で反抗期だったら困っちゃうな。単にやんちゃなだけじゃない?」
「は、はあ……」
そんなもんかな……と思っていると、リデルがアビーを呼びつけた。
アビーはスカートを翻し、リデルに飛びついた。
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