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第5話
「きみはまだ人間の悪意を知らない。人間は自分とは違うもの、未知の生き物に対して非常に冷淡だ。私は見た目こそ人間そっくりだけど、中身は全然違う化け物なんだよ。時々里に下りたりすると、人は皆、何か得体の知れないものを見るような目で私を見てくるんだ。石を投げつけられたこともある。そんな目に遭うの、嫌だろう?」
「何言ってるんスか。石投げてくるヤツなんて、逆に俺がぶっ飛ばしてやりますよ。それに師匠は化け物なんかじゃないし。俺にとっては一番……」
大事な人なんです、というのは照れくさくて言えなかったので、咳払いしてごまかした。
「とにかく! 今日という今日は『印』を刻んでもらいますからね! 師匠がそうしてくれるまで、俺絶対ここを出て行きませんから!」
「……やれやれ、困ったね。魔法使いになったら寿命もなくなってしまうのに」
呆れたように苦笑し、リデルは話題を変えた。
「ジェームズ、私は朝ご飯を食べたら出掛けないといけないんだ。遅くなるかもしれないから、今日一日留守番頼めるかな」
「いいっすけど、帰ってきたら魔法使いにしてくれます?」
「それは考えておくよ。ご飯、早く持って来てね」
そう言い置き、リデルは逃げるようにキッチンから出て行ってしまった。
肝心なところで話をうやむやにするのは、リデルの常套手段だ。そうやって二年間、ずっとごまかされ続けて来た。
でも……。
(今日という今日は絶対ごまかされないからな!)
リデルが帰ってきたら絶対に魔法使いにしてもらおう。この想いだけは何を言われようと変えるつもりはない。
魔法使いになりたいというのは物心つく前からの悲願なのだ。ちょっと反対されたくらいで諦めてたまるか!
ジェームズは内心で気合いを入れながら、熱々のスープを皿によそった。
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