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第4話
おたまを取り、スープを温め直していると、リデルもキッチンに入ってきた。片腕には新しいシャツを持っている。
「ジェームズ、これに着替えてから料理しなさい。汚れた格好のままじゃよろしくない」
「あ、はい……すいません、気が付かなくて」
「まあ、きみのそういうおおらかなところ、私は好きだけどね」
「え……」
憧れのお師匠様に「好き」と言われて、ジェームズは反射的にドキッとした。
ジェームズにとって、リデルは師匠であり、父であり、片想いの相手でもあった。三歳の時に山に捨てられていたジェームズを、拾って育ててくれたのはリデルなのだ。
物心つく前から彼を慕い、魔法に触れ、「リデル」という存在に憧れていた。いつかリデルのような魔法使いになって、彼と対等な存在になりたいと思っていた。
だけど……。
「それにしてもジェームズ、きみはいつまでここにいるつもりだい?」
「へ? いや、それは……」
「きみはもう二十二歳だろう? あと数年もすれば私の歳を抜いてしまう。早くここを出て普通の人間として生活しないと、人間の社会に馴染めなくなってしまうよ」
「…………」
ジェームズは視線を移し、リデルの左手の甲を見た。そこには魔方陣みたいな複雑な紋様が刻まれていた。
(これが師匠の「印」か……)
魔法使いになりたい者は、自身が成人するまで待ち、その上で師匠に「魔法使いの印」を刻んでもらう。それで初めて魔法の使役を許されるのだ。
ジェームズも幼い頃から「魔法使いになりたい」と思っていたから、二十歳の誕生日を迎えた時、嬉々として「魔法使いにしてください」とリデルに頼んだものだ。
ところがリデルは、いつまで経ってもジェームズに「印」をくれない。それどころか遠回しに「早く出て行け」と言うばかりで、一向に弟子入りを認めてくれなかった。それがジェームズにとって唯一の不満だった。
ジェームズはリデルを真っ直ぐ見つめ直し、ハッキリと言った。
「師匠……やっぱり俺、魔法使いになりたいです。師匠とずっと一緒にいたいです」
「……やめておきなさい。魔法使いなんてなるものじゃない」
「なんでですか。俺がそうしたいって言ってるのに」
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