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第8話

 そんなリデルを、遠くから覗いている村人がいた。 「……人殺しめ」  この村に住んでいる、三十代半ばの男である。去年の流行り病で妻と娘を亡くし、今は一人で細々と生活を送っていた。 「おい、マーク。まだそんなこと言ってるのかよ?」  村人の一人が、彼に声をかけてくる。 「お前のカミさんと娘さん、もう手遅れだっただろ? あの魔法使いにもどうにもできなかったんじゃなかったっけ?」 「いや、違う! 絶対あいつに毒を盛られたんだ! 他のヤツには効いた薬が、うちのには効かなかった!」 「だからそれは手遅れだったからだろ?」 「違う! あの魔法使いが毒を盛ったんだ! あいつがカミさんと娘を殺したんだ!」 「……お前、一年経っても全然変わってねぇな。その思い込み、どうにかならんのかねぇ」  村人は呆れながら、男から離れていってしまった。  彼はそれすら目に入らないまま、ひたすらリデルを睨み続けた。 「見てろよ、人殺しの魔法使いめ……」 *** 「おいアビー、少しは手伝えよ!」  ジェームズは落とし穴の近くで、穴を一時的に塞ぐための板を作っていた。  本当は魔法で穴を塞ぎたかったのだが、印をもらっていない以上、まだ魔法は使えない。倉庫にあった板を組み合わせて、一時的な足場を作るしかなかった。  だが、落とし穴を作った犯人は全く手伝いもせず、リデルが置いていった魔導書をパラパラめくって遊んでいるだけ。 (そう言えばあの本、師匠の大事な書物だったよな……)  家にいる時はいつも脇に抱えている魔導書。外出する時は「なくすといけないから」と置いて行くのだが、なんでも世界に一つしかない貴重な魔導書だそうだ。留守番を頼まれる時は、いつも「なくさないようにね」と念を押される。 「ねえジェームズ、先生はいつ帰ってくるの?」  書いてある字が読めなかったのか、アビーはつまらなさそうに魔導書をテーブルに放り投げた。おいコラ、大事な魔導書を粗末に扱うな。 「知らねぇよ。夕方には帰ってくるんじゃねぇの?」 「えー……? アビー、魔法教わりたいのにー」 「魔法使いにならなきゃ、師匠は魔法教えてくれねぇよ。ていうかアビー、わかってんのか? 魔法使いじゃないヤツは魔法使っちゃいけないんだぞ」 「わかってる。もう落とし穴は作らないもん」 「いや、落とし穴だけじゃなくてだな……」 「アビーも早く魔法使いになりたいな~」

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