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第10話

(やべっ! 師匠の魔導書!)  俺としたことが! あんな大事なものを忘れるなんて、一生の不覚!  ジェームズは足を止め、アビーに言い聞かせた。 「アビー、ちょっとそこに隠れて待っててくれ」 「え? ジェームズ、どこ行くの?」 「俺はちょっと忘れ物をした。すぐ戻るから、お前はここで待ってろ」 「いや! ジェームズが行くならアビーも……」 「ダメだ! たまには言うことを聞け、アビー!」  そう怒鳴りつけたら、アビーはびくっと肩を震わせた。  泣きそうなアビーを勇気づけるように、ジェームズはあえて明るく笑ってみせた。 「大丈夫だ、絶対戻ってくるから。だから少しの間だけ、いい子で待ってな」 「う……うん……」  アビーが頷いたのを見届けて、ジェームズは急いで家に戻った。玄関からはもちろん入れなかったので、寝室の窓から家に入った。 (うおっ……ちょっとヤバい……)  木造の質素な家のため、思った以上に火の回りが早かった。一番遠いと思っていた寝室ですら、白い煙が充満してきている。  リビングのテーブルに置きっぱなしの魔導書、無事だといいが……。 (あっ! あった!)  素早くリビングに戻り、テーブルの上を見る。木製のテーブルもいよいよ発火しそうな状態だったが、魔導書はなんとかギリギリ無事だった。  ジェームズは奪うようにそれを掴み、しっかりと脇に抱えた。  だが次の瞬間、 「うわっ……!」  天井から炎を纏った梁がバラバラと落ちて来た。  急いで引き返そうとしたが、寝室に通じるドアの前に焼け落ちた柱が倒れて来て、退路を塞がれてしまう。 (やべ、逃げ道が……)  他の部屋から逃げようとしたが、床にも火が回って来ており、天井まで届く火柱で四方を囲まれてしまった。 「く……っ」  師匠が帰って来たら、魔法使いにしてもらうつもりだった。リデルの弟子になるのが自分の夢だった。彼と同じ魔法使いになって、彼と同じ悠久の時を生きたかった。  でも、これでは……。 (師匠……)  燃え盛る炎の中で、ジェームズは魔導書を抱き締めた。

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