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第9話

会社の喫煙ルームでタバコを吸っている時だった。 「酷いじゃん。金だけ置いて連絡先も教えてくれず先に帰るとか。」 「な、なんで。」 あまりに驚いて固まる。 そこには金曜の夜、一緒に乱れた二度と会うはずのない男が会社の喫煙ルームにいた。 「俺、隣の部署で働いてるんだ。 やっぱり気付いてなかったのか。 俺も海で会った時はまさか会社の奴だとは思わなかったけど。」 「そんな。」 「金曜の事、会社の奴にバレたらどうする?」 コイツ……! 脅すつもりか!? 「…………何が望みだ?」 「セフレになって。」 「え……」 「あゆ君、可愛かったし相性も良かったし。」 セフレ!?   「好きな男がいたんだろ? 『別れたくない』って寝言で言ってたよ。 俺が慰めてあげる。ヤケで変な男、引っ掛けるより良いと思わない?」 でも、セフレなんて。 俺には無理…… ふと瑛人の新しい恋人を思い出した。 腕を組む二人。お似合いだった。 言われてしまった『友達』って言葉。 俺はもういらないんだ…… ちょうど……いいか…… 愛のないセックス。後腐れのない関係。 今の俺にはピッタリだ。 コイツだってどうせすぐに飽きる。 大した事ない。 一回ヤッたら5回も10回も変わらない。 もう操を立てる相手もいないし、別にどうでもいい。 この時の俺は投げやりだった。 とにかく早く瑛人を忘れたい。 その一心でありえない提案を飲む事となる。

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