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第4話
今夜も柾樹の就寝を見届け、自分の部屋へと戻る。
日報なるものを、ここにきた時からずっと日記のように書いている。それに最近では当主との会話も録音している。
何かが起こった時に、柾樹を助けられるならと、いくつものアンテナを張りめぐらせ毎日を過ごしている。
当主が柾樹を構うのも無理はない。
医者が告げ口をしているのがあからさまにわかるのは、十八の誕生日を迎え、柾樹はなんとも言えない色気を放つようになった。生まれ持ってのものなのか、時折見せる妖艶な表情にゾクっとする時がある。あどけなさと大人の色気を放つようになった柾樹に、どう対処していいのかわからない時がある。
清彦自身、ここにくるまでに何人かの女性と付き合ったことがある。それは心底惚れた女ではなく、興味本位の若気の至りだった。祖父母が亡くなった後は、必死に大学の単位を取り、バイトに精を出していた為ここにきてからと言うものそう言ったことからは遠ざかっていた。
そんなものより、清彦が欲しかったものを柾樹が持っている気がした。それは偽りでもいい家族という形だったのかもしれない。柾樹といることで心は満たされ毎日が充実して幸せな時間を過ごしていた。
ふうっと溜息を吐いた清彦は部屋に備え付けられた風呂場に行き1日の汗を流す。そして零時を回る頃、柾樹の様子を見に行き、起きていれば添い寝をしてやる。この十五年1日も欠かしたことはない。
寝巻きに着替え時計を見る。いつもより早い時間に1日の仕事を終わらせたと思い、窓際の1人掛けソファに二度目の溜息と共に身を沈めた。
この先、当主に柾樹を取り上げられるのではないかと、内心恐怖と戦っている。呼び出される度、体力は倍以上消耗し心労を伴う。
その時、静まり返った屋敷の中で、ガタンっと大きな物音がした。慌てて立ち上がり、隣の部屋へと駆けていく。
いつもならノックをするところだが、嫌な予感が走り勢いよくドアを開けた。
ベッドの横にある窓のカーテンがふわふわと揺れていて、ベッドの上には柾樹ではない黒い物体が覆いかぶさっている。慌ててライトを付ければ、その塊は焦ったのかベッドからずり落ちた。
「誰だ!!」
逃すものかと掴みかかり、その男を背負い投げ飛ばした。仰向けに転がった男を見れば何処かで見たことのある顔だと睨みつける。
柾樹に振り返れば上半身があわらになり、口元に血が滲んでいた。
ワナワナと体が震え出し、頭に血が昇るということなのかと初めて知った。ノシている男を羽交い締めにし肩の関節を外した。
大きく呻きながらのたうち回る男を横目に、避難用具から縄紐を取り出し男を縛り上げ、泣きじゃくり震えている柾樹を抱え上げた。
警察を呼ぶのはマズい。当主にそれこそ何を言われるやらわからない状況に思考を巡らせる。
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