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第6話
ベッドに腰掛けると、しがみついて離れない柾樹を膝に乗せ抱きしめた。怖かっただろうと胸が苦しくなる反面、震えた手を差し伸べた柾樹の顔を見るのが怖い。触られた身体を確認し何をされたかを聞きたいのだが、清彦はそれを聞くことを躊躇った。
俺のものに無断で触り傷つけた暴漢に嫉妬と怒り、殺意さえ湧いてくる。
その証拠に肩を外すという仕業を仕向けたのだが。そんなものは序の口だと顔を覗かす悪魔がいる。
「柾樹、もう大丈夫だよ。顔を見せて」
名前で呼んでやるとのそのそと顔を上げた。肌蹴たシャツから見える鎖骨にくっきりとついた朱印。
殴られ切れたんだろう口元は紅く染まり、まるで人を喰ったかのように血の付いた紅い舌を覗かせた。白い肌は紅を一際引き立たせる。
空気がプツンと切れたようなそんな感覚と、鳥肌が立つようなゾクゾクとするものが背中を走った。
ポロポロと琥珀色の瞳から宝石のような涙が溢れ、我を忘れて見惚れてしまう。
指先で拾い集めるように拭いてやると、手に擦り寄るように首を傾ける。薄眼をこちらに向ける扇情的なその表情に、清彦の雄が顔を覗かせる。
抱きたい…この綺麗な顔を快楽で歪めてみろと、もう一人の清彦が囁く。湧き上がる怒りと欲情は的確にその朱印に食らいついた。これは俺のものだと確たる印をつけるために。離した場所には清彦の新たな朱印が付き、喉を鳴らした。
荒れ狂う雄を、精一杯の理性を掻き集め宥めるようにもう一度その細い身体を抱きしめた。
「怖かった…」
擦り寄せた頬で体温を確認ししているかのような、幼いその仕草と柾樹の呟きに我に返った清彦は、掻き抱いて胸が張り裂けそうになる想いを押さえ込んだ。
隣の部屋にいながら気付いてやれなかったことを後悔し、もう一人にはさせないと誓う。
あの、植木職人が柾樹のこの妖しい匂いにあてられたのかはわからないが、邪な思いで柾樹を傷付けようとしたことは確かなんだとはっきりと意識は覚醒する。
そして自分も…柾樹に邪な感情を抱いてしまったことに体を掻き毟りたく程、懺悔をしていた。
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