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第7話
偽りであっても柾樹は家族だと思っている。兄のように親のように、一番の理解者だと、そして全てにおいて柾樹の一番でありたいと思って育ててきた。
「…あの人…僕が悪いって…何度も言った…僕がなんかしたんだ…ねえ、清彦…あの人どうなるの…僕が、悪いことしたなら…謝らなきゃ…」
襲われて怪我をしたというのに、相手の事を想う綺麗な心に魅せられて堪らない気持ちになる。
邪な想いをぶつける大人に、そんな綺麗な心はいつか踏みにじられてしまうんではないかと、それはやはり自分が守らなくてはと清彦は胸に置く。
「大丈夫、あいつは元警官なんだ。悪いようにはしない。それより手当をしよう。口の中切ってるみたいだな…」
ナイトテーブルの下にある救急箱を持ち上げた。
「清彦って、強いんだね…僕びっくりして見惚れちゃった」
顔を上げた柾樹は口元を痙攣らせながら笑顔を見せてくれる。その笑顔が痛々しく口元を壊さないように触れた。
「武道をやってたからね。それより、身体…痛いところはないか?」
「大丈夫…あの人…僕を殺そうとしたんじゃないよね…犯そうとしたんだよね…」
「…何でそう思う?」
綿花 に含ませた消毒薬をつければ痛そうに顔を歪める。それさえ、自分の胸に染みいるようで清彦の胸はキシリと痛んだ。
「僕のここ…清彦にしか触らせないとこ…揉むように触った…ここも…女の人みたいに膨らんでないのに嬉しそうに触った…僕…男なのに…」
細く華奢な手が、肌蹴たシャツの上から胸の突起をゆるゆると弄る。その淫靡な姿に清彦は眉を寄せた。
「そうだな…世の中には、同性が好きな人だっている…あいつは…柾樹をいいなぁって思ったのかもな…」
言葉にすれば苛立ちが増す。そして、柾樹もいつか誰かのものになる日がくるのかもしれないと頭の隅を掠めた。
もし、それが自分と同じ男なら…許せるのだろうか。柾樹が誰かを愛し、その人のものになる。
清彦が求めていたものが誰かの手によって形を変え、何の繋がりもないただの使用人になる時がくる。
そんな妄想にガツンと殴られたような衝撃で、そんな未来を受け入れられない清彦は考えるのを止めた。また一人になる日がくる。その現実を受け入れようとも頭が、身体が拒否してしまった。
熱帯夜の夜は湿度が強くなり、雨音が聞こえ始めた。
雨音を嫌う柾樹は首元にしがみ付き、いやな妄想に気持ちの沈んだ自分を抱きしめてくれるように思えた。
「今日は一緒に寝よう。明日になれば雨も上がってるよ」
肌布団を捲り、身体を滑らせた。その横に寄り添うように柾樹が入ってくる。
愛おしく見つめながらこのまま二人で入られたなら。そんな叶いもしない夢を見たいと抱きしめながら眠りについた。
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