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02.
鷹博とは週に二日くらい放課後に会っている。休みの日はたまに。
優としてはもっと会いたいというのが正直な話だが、鷹博は勉強が趣味らしく、図書館に通ったり塾に行ったりして忙しい。勉強や進学に一切興味のない優にとってはどうでもよく、もっと相手してくれよ、と思う。
「は? 塾増やす?」
「……というか家庭教師を頼むことになって」
「…………そうかよ」
優等生には似合わない、駅から離れたファミレスが二人がいつも会っている場所だった。他の生徒はファーストフード店を利用するからファミレスなら知っている奴に会うこともないし今までも誰かに見られたことはなかった。
「……ごめん」
「っ……」
謝られると責めるつもりだった気持ちがしぼんでいく。
「……家庭教師って女? 男?」
「女の人らしい」
「…………あっそ」
安心なのかそうでないのか。鷹博は恋愛には疎そうだから家庭教師をそういう目で見ることはないにしても、あっちが誘惑してきたら……? 優はこの前友達に借りた漫画を思い出していた。いやらしい身体つきの女家庭教師が、純粋そうな高校生の男を誘惑し、童貞を奪う話だ。それを読んで少なからず興奮した優は同じことが鷹博にも起こるのではないかと妄想をふくらませる。
だめだ。これはまずい。
優とつき合っているにしても、女が嫌いってことはないだろう。優だって、鷹博のことは好きだけど女の身体はやわらかくて心地がよさそうだとは思う。一度その味を知ってしまったらクソ真面目な鷹博だって――。
「や、やだ」
「…………え?」
「家庭教師断れよ」
ドリンクバーで持ってきたメロンソーダをストローでずず、と最後まで吸った。どきどきと胸が鳴っている。
「無理だよ」
「なんで。塾で十分じゃん」
「断るなんて僕……無理、だよ。……ごめん」
「っ! そんなにお勉強が楽しいのかよっ!」
「あっ……」
優は立ち上がり、勢いで店を飛び出した。
あとになってお金を払っていないことに気がついたが、今は気にしていられなかった。
家庭教師までいれてしまったら、優と会う時間はさらになくなってしまう。それに、家庭教師に誘惑でもされてしまったら――。
優の頭の中には、嫌な妄想しか浮かばなくなっていた。
その日の夜、「ごめん」というメールが入っていた。
返信することができなかった。
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