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03.

 鷹博と会う時間は、減っていった。  優は、鷹博は今日は塾行ってるのか、家庭教師か、などと考え疲れてしまった。このまま会う時間が減っていき、気持ちも離れていくのだろうか。もともとつき合っていたことが不思議なのだ。  優も、鷹博といた時間は今まで通りの生活に戻るだけだ。 「優、最近つき合いいいな」 「はぁ? もともとこうだし」 「……お、おお」 「ふん」  放課後はまずファーストフード店や寄り道をして腹を満たし、ゲームセンターで時間をつぶす。といっても使うお金も限られているので、軽く遊んだり、人が遊んでいるのを見る程度だった。たまに絡まれケンカをすることもあるけれど、最近はそういうのは面倒だった。 「なあこのあとどうする?」 「んー……」  以前は楽しくてやっていたことが、今は楽しくない。  鷹博とはたった週の二日の数時間程度しか会っていなかったが、あの日をどれだけ楽しみにしていたのだろうと、自覚してしまった。  鷹博は優に会いたいとは思っていないんだろう。  だから、会いたい、なんて悔しくて言えない。 「とりあえず駅前のコンビニ行くか?」  仲間に声をかけられたが、頭の中は鷹博のことばかりだ。目的もなく駅の方面へ向かってしまう。あのビルは、鷹博が通っている塾が――。 「あ」 「優どうした? ああ、うちの学校の奴らか……よくやるよなあ……受験なんて来年だっつーのに」 「…………」  本当、よくやる。 ――どうしてあいつは俺を選んだんだ?  優の頭が熱くなる。  これだから、カッとなりやすい性質は困る。 「おい!」 「え? あ……」  振り向いた鷹博のメガネの奥の目が見開かれた。 「ちょっと来いよ」 「お、おい遠野なんなんだよ」  鷹博のまわりにいた同じようなメガネをかけた男子生徒が怯えながらも制止に入る。みんな同じような顔をしているのに、鷹博の顔が一番いいと思うのは勘違いだろうか。 「うるせえ、お前らには関係ねえ!」 「わっ……」  自分よりも身長の高い相手の腕を引っ張り、早足で歩く。どこへ行くかなんて決めていない。ただ身体が勝手に動いてしまった。  後ろでは鷹博が何かを主張している。でもそんなのは無視をして、歩いて歩いて歩いた。  気づいた頃にはよくわからない場所にいて、近くにあった公園に入る。平日の夜の公園では、人影が見当たらなかった。  ようやく止まり、息を整える。鷹博の腕は掴んだままだ。  振り返ると鷹博も息を荒くしていた。 「っ、遠野くん……どうしたんだ急に」 「……」  彼はただ目をまるくしていて、優の気持ちなどこれっぽっちもわかっていないような顔をしている。悔しい。悔しい――。 「……あ、あ、会いたかったからだよ!」  言った。言ってやった。  優の大きな声と荒い息遣いが、静かな公園に響いた。 「……どうして」  呆然としたままぽつりとつぶやく。 「はあ?」 「どうして君が、こんな僕なんかと……」 「っ……うるせぇ! それはこっちのセリフだ!」 「っ、」  鷹博の両腕を掴み、下から睨みをきかせる。 「なんでお前みたいな奴が俺みたいなのとつき合ってんだかわかんないし、他の勉強できる奴のほうがいいんじゃねえの!?」 「…………」 「…………クソ、黙ってんじゃねえよっ!」  イライラはピークに達し、いつもは鷹博にされることを仕返した。身長が足りないから背伸びをして、腕をぐっと引いて顔を近づける。 「……ん」  くちびるをぶつけた。キスとはいえないようなものだ。 「……遠野、くん」  驚いている鷹博を無視して優は何度もぶつかるキスをした。つき合うようになってから、一度にこんなにキスをしているのは始めてだった。  身体が熱くなる。  もっと、欲しくなる。 「なぁ……」  鷹博の顔が赤い。優もきっと、赤くなっているんだろう。 「俺だけに見せる顔、見せてよ」 「……は、ぁ……」 「あいつらの知らない、お前の顔……」 「っ……と、遠野くん……っ」 「んんっ!」  本当だったら優からもっと攻めるつもりだった。寂しい思いをさせやがって、と。けれど鷹博の細く長い指にくちびるをこじ開けられて、舌がふれた時にはもう何も考えられなくなっていた。  初めてする深いキスだ。  えろい漫画で何度も見た、舌の絡まるキスだった。いつか自分もするのかなあなどと考えたことはあったが、まさか鷹博からしてくれるとは思わなかった。  舌の根を吸われて、濡れた音を立てて絡め合う。 「ん、ぅ……ん」  暗く静かな公園に、濡れた音と互いの息の音だけが響く。いやらしいキスに優の腰は震え、足にも力が入らなくなってきた。 「ふぁ……ぁ……」  がくん、と膝が折れ地面についてしまった。同時にキスが終わりを告げる。 「……大丈夫?」 「ん……」  初めて経験した甘いキスに、優の頭の中はとろけていた。鷹博がこんなことをしてくれたというよろこびと、甘い感覚。ただ、これだけじゃ優の心は満たしてはくれなかった。鷹博ともっと確かめ合いたい。  ひざまずいた優は鷹博のスラックスのベルトを外そうと試みる。自分のと同じ制服のはずなのに、人のものを扱うのは難しい。 「ちょっと、遠野くん、ここ、公園……」 「関係ねぇっ」 「せっかちだね、君は」 「う、うるせえ! なんでお前そんな余裕なんだよ!」 「……余裕なんかないよ」  鷹博が優と同じ目線になった。小さなキスをされて、手を引っ張られる。「こっち」と小さな声で囁かれた。

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