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第2話

 俺には沢山の呪いがかけられている。  それは全て、実の父親である京介がかけたものだ。  いや…  呪いと言っても、実際に呪術の類とか、そういうものじゃない。忌まわしい宿命のようなものだ。じゃなかったら、男の身の上で、ましてこの俺が、この身体を犯した連中の人数がもうわからないほどだなんて、そんなことがあってたまるか。  当然だが、そのほとんどすべてが俺の意に反するものばかりだ。決して望んじゃいない。それどころか、最初のころは涙が出るほど屈辱だったし、今だって泣きこそしないが心持は一切変わらない。  それでも、こうやって何もなかったような顔をして、生きているんだから笑い話にもならない。  そんなんだからただただ身に降りかかった不愉快な現実を、汚されたっていう事実を、何より死にたくなるほどの恥辱を、やり場のない恨みや鬱憤に変えることばかり上手くなった。俺から見える世界はいつも淀んでいる。黒い煙に空が覆われているように思える。  今日みたいな日は…特にだ。 「クソ…クソ、クソ、クソが…!なんで俺が……!」  大通りから遠く離れて、工業地帯を抜けた先、異国の連中が我が物顔で街を作ったその奥に向かって只管に歩き続ける。どれだけ歯噛みしても、地団太を踏んでも、悪態をついても、この先の未来は変えられない。そんなことは俺が一番良くわかってるから、だからこそムカついて仕方がないんだ。  ああ、ああ!!  こんな日は誰でもいいから、思い切り殴って、蹴りつけて、ボロボロにして許しを請わせたい。  誰でもいいから、めちゃくちゃに自尊心を砕いてやりたい。  それで、そうだ、俺がされたのと同じくらい、手酷く犯してやりたい!!  そうすればどれだけすっきりするだろうか。どれだけ快感だろうか。  しかし今は時間がそうもない。  ああ、畜生!なんで俺ばかり…!  決めた、これが終わったら、京介が人形に夢中になっているうちに、それを実行してやろう。  俺だって無理やりにこんなことをされてるんだ。誰かにしたって問題ない。そうだろ?  自分でも獣のように荒々しい呼気を吐いているのがわかる。だが、こんなクソッタレな現状を絶望せずに生き抜くためには、多少なり未来に楽しみを作っておかないとやってられない。そう思えば、少しは現実がましに思える。  そんな事を1人で夢想していれば、ついに雑木林を抜けて、外界から切り離されるようにぽつんと荒れ地に建った白い建物にたどり着いた。 「……クソ……」  時間はあの男の指定の5分前だ。この建物の中に、あの不気味な男が待っていると思うだけで、身の毛がよだつ思いだ。  まといと名乗ったあの人形師の男は、あの日俺たちの前から姿を消してからすぐに、待ちきれないとでもいうのかその日のうちに俺に連絡をよこしてきた。  京介のリクエストに応えるため、必要な採寸をさせてほしい  と……。  ガリガリの幽霊男のくせをして、ずる賢い奴だ。京介の影をちらつかせれば俺が従順になることをわかっている文面だった。そのいやらしい書き方は、奴の脳内を表しているようで余計に気色が悪かった。こういうことをする奴が次に考えることなんてわかり切っている。何故なら、例の呪いのせいで何度だってこういう場面に遭遇しているから。  薄い扉をノックもせずに開き、玄関に入り込む。ここは日本だというのに、靴を脱ぐ場所もなく土足で入れと言わんばかりの作りに、遠慮なくブーツのまま固い床を蹴った。あの男は寄越した文の中に 工房に来い と書いていたが、そもそも工房の場所がわからない。外の気温とは対照的にひんやりとして静まり返った室内を歩き、一本道の廊下を20歩程度歩くと、突然やたらに広い場所に出た。 「…………」    天井から降り注ぐ陽光が眩しい。白い壁と床に反射して、目が眩む。周囲を見ればいくつも白い布のかけられた何かが置いてあるが、その中身をうかがい知ることは出来ない。俺の身長と同じくらいのものもあれば、わずかに高いもの、低いものが点在している。それら全てが無機質だ。 「…ぁ……や、…やあ、アサト…くん。…き、きてくれたんだね…。じ、時間通り、だね…ふふ…さすが…」 「……!…あぁ…」  ゆらり、と視界の片隅で何かがゆらめいたと思った瞬間、何もなかったはずの背後からあの不気味な声が響いた。相変わらず蚊の鳴くような声と、どもった喋り方だ。大方の予想はついていたが、やはりコイツも俺たちと同じ化け物の類のようだ。ちらと視線を後ろにやると、煙のようなものがみるみる人の形をして、やがてあの、白髪の男の姿になった。山吹色の瞳が、にやりと弧を描いている。 「お前の想像通り、京介に言われたらそうするしかないからな。時間に遅れるなと言われたから来たまでだ。  …それで、手短にしてくれよ。俺も暇じゃねえんだよ」  肩越しに改めて光に照らされたまといを見た。ボロボロの皮膚は相変わらずだが、それよりも奇妙だと思ったのは良く見ればコイツ、女物の着物を着てやがる。どこで仕立てたのか俺と頭一つ分は違うだろうというくらいの長身にぴったりのサイズだ。ますます気持ちが悪い。その上自信なさげに消え入りそうな声で話すくせに、表情はニヤニヤと笑みを浮かべて不敵にも思えるほどだし、視線を俺に絡めたまま離すそぶりもない。京介とはまた違う異様さだ。カラン、コロン、とまたあの足音を響かせて、奴の身体が俺を追い越した。 「…そ、そうなんだ…ご、ごめんね。それは…。でも、でもさ、京介さんは、いつでもいいって…。今日は、好きなだけ、そう、好きなだけ、アサトくんを借りて、いいって…、そ、そ、そういってたんだ。だから……大丈夫、大丈夫だよ。ね。」 「…………」  何が大丈夫だこのクソ野郎が。やっぱりずる賢い奴だ。それも俺が呆れるくらいに。俺が京介のことを言い訳にさっさと帰ろうとするのを見越して、予防線を張ってたんだろう。そもそも、さっさと帰らせるつもりもないってか。  部屋の中央に置かれた作業台と思しき机に近寄って、どうぞ、とその白い指が椅子を指し示した。光の下で見れば見る程生理的な嫌悪感を感じるその笑顔に、ぞわぞわと鳥肌が止まらない。が、こんな様子でずる賢いこの男のことだ。妙なことをしたらすぐに京介に言いつけるだろう。面白半分に痛めつけられるのは御免だ…あいつは何時だって俺を叱責するネタを探してるんだから。とすれば、どれだけ嫌でもまといの指示に従っていた方がましだと、指示された椅子に座り、足を組んだ。 「ふ、ふ…うふふ…嬉しいなあ…き、き、君とこうやって…ゆっくり過ごすことができる、なんて……。  あのね…実はね、お、お、おれね……君に、興味があったんだ…。だから、ずっと、知りたくて……な、なんだか、夢みたいだなあ…」 「…フン…俺に興味……ねえ」  作業台を挟んだ対面に座るまといは、丸い入れ物の中から陶器の器と日本製のティーポットのようなものを出して何やらガチャガチャとやっている。ほどなくして差し出された薄緑の熱い液体を見て、そういえばこんなのを京介が昔飲んでいたなと思い出していた。茶のはずだが、確かひどく苦くて苦手なやつだ。口を付ける気にもなれなくて、ただ立ち上る湯気を見つめていた。 「そ、そ、そう…。君って…知ってるかどうか…わ、わからない、けど…、京介さんを知る人には…ゆ、有名、だから。  お、お、おれも、京介さんのことを知ったのは…さ、最近、だけど…。その、い、色々、凄い人だって…聞いててね。じ、実際に見て…本当にそうだって、そう、そう思ったんだ。あ、あ、あんな、あんなに美しい人がいるなんてって…すごく、驚いちゃって」 「ハ…お前、人形師なんだろ?それもお前の作品は美しいって、京介が褒めてたぜ。そのお前が美しさに驚いたとか…お笑いだな」 「そ、そ、そうだよ。お、おれだって…造った子の美しさには自信がある、よ。で、で、でも、あの人は別格だ。き、君だってわかるだろ?」 「さあな…常日頃からあのツラ見てるからわかんねえよ」  何をそんなに興奮しているのか、身を乗り出して京介の容姿の美しさを熱弁する様が鬱陶しくて顔を背けた。いくら見た目が良くたって、あれはただの化け物だ。そんなの俺が一番良くわかっている。だが化け物だからこそだろうか、アイツの美しさはどうやら神秘的な何かのように見えるようだ。俺にはもう恐ろしいものにしか見えないが、だからこそ…  俺に呪いがかかるんだ。  どうせ、この目の前の男も、まもなくそれを口にするはずだ。 「…そう……で、でも、本当に圧倒的なんだ…。だ、だから……その…み、みんな、気にしてる…。  き、京介さんが、欲しがれば…な、な、なんだって手に入る…。う、う、美しいものも、全部。  そ、そんな、あの人の……一番の、お気に入りが…君、なんでしょう……?」 「…………」  ほらな。またそれだ。  結局いつもこうなる。これが俺の呪い。俺の宿命の1つだ。 「……そうだな、珍しくもなんともねえありふれた感想をどうもありがとうよ。  ああ、そうだ、俺はアイツの玩具だし、アイツが気に入るように作られた存在だ。  で、だから何だ?俺の予想じゃあ、お前が次に口にする言葉も、したがってる行動も、もうわかり切ってるけどな」  見開かれた瞳が、またぎらぎらと光を放ってこちらをじっと見つめている。  ああ、見慣れた瞳だ。反吐が出る。気持ちが悪い。  不愉快を隠すことなく表情に浮かばせて、嫌悪をむき出しにしてやっても、こういう手合いの奴はその薄汚い欲望をひっこめることはないんだ。むしろ、嬉しそうにする奴だっているくらいだ。  京介のお気に入り。  京介が唯一手元に囲っている奴がいる。  その噂だけで俺には十分な呪いだ。そしてそれを聞いた奴が俺を見たあとに思う事も、やることも大体決まってる。  それこそ人形のように美しいとか、特別な何かがあれば何も言わずとも納得する理由になるだろう。だが、俺は自分でも自覚できるほど、大したことがない。その辺を歩いている連中と何も変わらない。だからこそ俺を見たやつは大体こう思う。  なんで、こんな男があの京介のお気に入りなんだ って。  それで、ついでにこうも思うわけだ。  きっと何か理由があるに違いない。アイツの役目を考えると、きっとよほど……良いんだろう。  ってな。  そうしたらあとは京介と知り合うような連中だ。そろいもそろって下衆と外道の寄せ集めだ。そんな奴に見境を期待する方が間違ってる。最初から男だろうが女だろうが関係ない奴も、男には興味がなかったはずの奴も、とにかくこぞって口々にこう言う。  味見させろ  って、下卑た笑みを浮かべながら。  しかもよりによって京介は俺が他人に犯された後にするのが大の気に入りだ。俺にどうやって辱められたんだとか、どうやって果てたんだとか、その詳細を説明させながら抱くのが好きな極まった悪趣味を持っている。だから味見させろと言われたら丁寧にもてなせと、そうなる前からいつも言い聞かせるんだ。それはきっと、俺だけじゃなくて相手の男にも言っているはずだから、本当なら連中のイチモツなんざ噛み千切ってやりたいくらいだが、下手なことをしたら京介に告げ口をされることが分かっている。  だから…もう、終わらない悪循環になってしまう。  いつも、いつもそうだ。  もてなせと言われて渋々でも応じてしまえば、1度味わった連中は2度目を、3度目を欲しがる。決して1度では終わらない。  顔を見るたびについでとばかりに要求してくる奴、むしろそれ自体を目的に京介に会いに来る奴すらいる。  呪いだ。どうしようもない。  そんな状況を作り出している自分がのうのうと生きていることも嫌になってくるほどだが、結局もう逃れられないんだ。諦めるしかない。  そして……どうせ今目の前にしているこの男も、京介に言われてるんだ。  俺に、もてなしてもらえってな。  じゃあもう、どうしようもないだろう。 「……あ、あ、でも…その、そ、それだけじゃない。本当、本当だよ。…はは、本当。  だ、だって、ね?おれは、京介さんにリクエストしてもらった通り……そう、作らなきゃだから、人形を…。  君の肌と、髪と…あと………同じ、味の…をさ……」  欲望をあからさまにすることに引け目でもあるのか、言い訳と免罪符をかざしながら奴は己の方に用意した茶をすすった。だが彷徨わせた瞳は何度も俺のほうをちらちらと見ていて、そんなわかりやすいごまかしがあるかと呆れる。  話も下手、声さえ聞き取りづらいし、身なりは異様。いくら顔のつくりが整っていても、肋骨が浮き出るほどの痩身とボロボロの肌じゃ触り心地も期待できないし、触れられるのだって遠慮したい。俺が思うことは、大抵他の連中だって思う事だ。だから要するに、相当ご無沙汰なんだろう。こういう機会でもなけりゃ誰にも相手してもらえないほどに。久々の性の予感に浮足立っているのが分かりすぎて、ごまかす様子すら痛々しいくらいだ。 「…ねえ…」 「……!」  ざら、と台に置いていた指先にやすりのような感触が伝ってきた。見なくてもわかる。まといが指を絡めてきたんだ。見た目から想像していたよりもはるかに乾燥している指先は、やはり心地が悪かった。  まるで他人同士の境界線を破るように、骨を、筋を伝って骨ばった指先が手首をなぞり上げる。  ……いよいよ逃れられないな。今からコイツと、身体を繋げるのか。   奴の肌の感触を知った。奴もそうだ。  そして次はきっと唾液の味を知って、愛撫の仕方を知って、やがては身体の中に刻まれるのか。  …寒気しかしないな…。  しかも奴の指はじっくりと、確かめるように何度も肌の上を滑っている。腕の背を、腹を撫で、やがて一番軟らかい内側を僅かに押しながら、パーカーの袖の内側に指先を差し込んだ。こういう粘着質な触り方をする奴は、俺が一番苦手なタイプだ。いつまでもいつまでも体中を撫でたり舐めたりして終わらないし、とにかく長くてしつこいんだ。 「あ、ああ…興奮しちゃうなあ……。ふ、ふふ…自分の作った人形以外と……するのなんて……久しぶりすぎて…」 「…ッ…本当…、気持ち悪い奴だな…っ…お前…」  肌は老人のようにガサガサな癖に、裂けたように大きく開かれた口元は十分すぎるほど濡れている。いやに活き活きとして別の生物のように赤い舌先が渇いた唇の上を何度も行き来して、無理に興奮を往なしているようだ。ガタン、と作業台が傾く音がして、ついに痺れを切らしたのかまといが台の上に乗り上げる。ただでさえ背が高いのに、そんなところから見下ろされたらまるで覆いかぶさられたような気さえする。頬に、奴の傷んだ髪が触れた。 「……い、いいよ…何とでも言ってよ…。そ、それでも君は…おれに、抱かれるしかないんでしょ…?だ、だって、そうしろって、言われてるんだもんね?…じゃ、じゃあ、しょうがないよねえ。  ……は、はは、す、すごい…こんなに腰、細いんだね……掴みながら、したら……いいんだろうなあ…」 「気持悪い上に…そういう性癖とか…、…ッ…ハ、救いようがねえな…」  細長い腕が腰に巻き付いて、グイと上に引き上げられる。枝みたいな腕のくせにどこにそんな力を隠し持っているのか、やすやすと身体を持ち上げられた。強がってみたものの、恐ろしいというよりも気持ちが悪いという感覚がどうしても体中を支配して縮み上がる。ああクソ、情けない。せめて抵抗することができりゃいくらかましなのに、コイツの言う通り俺は奴の意のままになるしかない。しかもよりによってサディスト気質かよ。本当についてない。泣きだしたくなるほどの嫌悪を抑え込んで、ただ唇を噛んで耐えた。  奴はやはり己の身体を煙にしたり実体にしたりすることができるらしい。俺を掴んだ腕はそのままにふわりと身体を持ち上げられたと思ったら、気づけば俺は作業台の上に横たわらされていて、その上にまた姿を現したまといが覆いかぶさった。近くなった奴の首筋からは、線香のような香りがする。ますます、死神みたいだ。 「あ…ああ…いい匂い…。そ、それに…アサトくんの肌って……すごく…気持ちいいんだね…。ず、ずっと触ってたい、くらい…。すごい、なあ…こういう素材は…はじめてだ…」 「…ぅ…。く…そ、別に…特別でもなんでも…ねえだろ…っ…」 「…そ、そんなことない…吸い付くみたい…。……味は…?」 「ひっ…!」  まといの両手がついに躊躇いも全部捨てて、両の脇腹を撫でた。堪能するように何度も何度も腹の筋を伝って、そのたびにぞわり、ぞわりと悪寒がする。想像通りねちっこい触り方だ。おまけに不穏なことを口にしたかと思うと、今度はねっとりと唾液まみれの舌で首筋から耳元までを舐られた。先ほど見たあの悍ましい舌先が耳孔を犯しているのだと思うだけで身体が竦んだ。なのに奴はもう箍が外れてしまったのか、ぐちゅぐちゅと下品な音を立てて夢中になって耳朶をしゃぶっている。 「…ッ…ぁ、も、…やめろ…!そこは…関係ねえだろッ……なあ…!」 「あ、は、は…泣きそう…アサトくん…。ね、ね、嫌なの?怖い?それとも…気持ち悪い…?か、かわいいなあ……もっといっぱい、したくなっちゃうよ…」 「~~~ッ…!お前ッ…本当に最低だな…ッ…!!」 「……ふふ…暴れると、よく、わかんなくなっちゃうよ…、も、もっと、確かめないと…」  ああクソ、クソ…!本当に最低だ!久しぶりにこんな最低な奴と会った!  何もかもが俺の苦手なタイプだ。この知らしめるような触り方も、いちいち夢中になってしゃぶりつく好色さも!幽霊なら幽霊らしく枯れ果てていりゃいいものを、その腹の中に燻らせた欲は相当なモノなのだろう。さっきから俺の脚を割り開いて、グリグリと恥も臆面もなく性交の真似事でもするみたいに雄を擦りつけてきやがる。もう挿れたくてしかたないって素振りだ。ぞっとする。  もうこうなったらいっそのこと、さっさと挿れさせてしまったほうが楽かもしれない。血の気が引くほど気持ち悪いが、どうせいずれはそうなるんだ。だったらそれが早いか遅いかってだけだ。こんな風に欲情してると見せつけられるよりはましだ。 「…な、あ、もう……いいからッ…!慣らさなくても、なんでもいいから…そのまま、突っ込めよ…!  我慢、できねえんだろ…?」  そうすりゃ早く終わる。なんならコイツの上で腰振ってやってもいい。とにかく早く終わらせたくて、胸元に狙いを変え、その先端に吸い付こうとした奴の髪を掴んで提案してやった。  が… 「……は…あはは……っ…!やだ、よ…だって…そんなことしたら…すぐ、終わっちゃうでしょ…?い、いっぱいすれば、いいんだけど、さ…その前に、もっと、知らないと。アサトくんの、こと…。ま、まだ、全然わからないもの…お口の中、も…ここ、も、…あ、あと…ナカも…。じっくり…確かめないと…ね?」 「…はっ……―――!?」 「そ、それに…どこが、気持ちいいとか……。ね、ね、教えて、よ。一緒に、き、気持ちよく、なろう?……じゃないと…いつまでたっても…つ、作れないなあ」 「………お、まえ…ッ…」 「お前、じゃ、ないよ…まとい、だよ。…な、名前で呼んでよ…」  やっぱりずる賢い奴だ。こっちの思惑も全部読んで突っぱねてきやがった。至近距離で見た顔は明らかに余裕なさげに蕩けているのに、それでも勢い任せに突っ込むでもなく要求をつらつらと重ねてくる当たりが本当に……嫌な奴だ。 「…ッ…ま、まとい…もう、じわじわされんのが…嫌なんだって…!頼むから…」 「…ええ…し、しょうがない…なあ…。じゃ、じゃあ、服、全部脱いじゃおうか…。そしたらよく、見えるし…」  こんな明るいところでかよ…!  下品な笑いを隠しもせずに、身体を離し、俺の様子をぎらついた瞳が見つめている。妥協案のように言っているが、それもただの要求だろう。それでも、早く、と急かすような視線に従うしかない。余計なことを言われないよう京介に求められた時にするように、もったいつけてすべての服を肌から滑り落とすと、奴の目の前に全身が隠されることもなくさらされて、これにはさすがにひどく羞恥を感じた。僅かでも隠そうとそろりと膝を閉じようとしたとたん、まといの掌が膝に添えられて、めざとくそれを咎めるように足を開かされた。こんなもの、見たところで何が楽しいのか全く分からない…だけれど俺にとっては耐え難い屈辱であることは間違いない。なんで、こんな…。俯いて羞恥に耐えていると、何の前触れもなく つぷり と俺のナカに奴の指先が侵入してきた。 「…く…―――!」  まずい、そこは……  ぶる、と腰から背筋を上る刺激に腿が震えた。 「あは…ふるふる…震えて…かわいい、ね。あっつくて…や、やわらかい…。せ、せ、狭いんだ、ねえ…アサトくんの、中…。きゅうきゅうって、して…まるで…そう、女の子の…みたい」 「~~~ッ!!…ぅ、るせ…え…!」  指を1本根元まで突っ込んだかと思うと、今度は腹側の粘膜を押し上げるみたいにして指先まで引き抜いて、何度も何度も確かめるようにゆっくりと出し入れしてきやがる。俺にもその行為を知らしめるようなやり方が余計に羞恥を煽って、顔がひどく熱い。それに…これは…本当にまずい。するなら一思いに犯してくれりゃあいいものを、しつこく中を撫で擦り上げてくる。ご丁寧に足まで開かされて。こんなんじゃ…隠せない。 「……は……ァ…っ…、く、そ…」 「…うわ…すごい…、ね…も、もしかして…気持ち、いいの…?これだけで…?うわぁ……、どんどん、とろとろに、なってきてる……!」  それだけじろじろ見てりゃ、俺の身体の変化になんていち早く気づくだろう。体中が熱くて、ジワジワと腹の奥に燻ったむず痒いような快楽が溜まっていく。俺がどれだけ堪えようと思っても、その事実自体を拒絶しようとしても無駄だ。長い年月あの男から教え込まれた味は身体が覚えてしまっている。だから…嫌だ嫌だと思っていても、結局、身体は勝手に悦んでしまう。もっとしてほしいと強請るように膨らみ始めた自分の性器を恨めしく思っても、もう止められない。あっという間に濡れてしまう。 「すごい、なあ…本当に…か、感じやすいん、だね…。中、好き、なんだ…。たまんない、や……ね、ねえ、じゃあ、ここ、は?」  いつの間にか2本に増やされた指が、卑猥な水音を立てて粘膜を探っている。ゆっくりゆっくり、身体も、そして何より俺自身の秘密も少しずつ暴かれてしまう。両腕に力が入らなくて、肘が折れた。自然と胸をのけぞらせるような姿勢になってしまって、それに誘われるようにまといの口元が先端に容赦なく吸い付いた。 「ぅ、あぁ…!待っ…て、くれ、そこ…いやだ…」 「ん…ふ、……おいしい…お、おれ…ここ吸うの…好き、なんだあ…」  熱い口内の温度が伝わる。明確な意思をもってちろちろと先端を舐られ、くすぐられてたまらない。ダメだって言ってるのに全く聞く様子もなく根元をぐりぐりと舌で苛んだかと思えば赤ん坊みたいにちゅうちゅう吸ったりして、やることなすことすべてがいやらしい。だから、ダメなんだって。そんなにしたらあっという間に……力が入らなくなる。  ガクガク肘が笑ってしまって身体が支えられず背を台にぴったりとくっつける羽目になった。逃げるように身体をよじっても、まといは決して許してはくれない。待って、と言う代わりに奴の羽織を掴んでも、それはまるで抱きしめるかのようになってしまって、勘違いしたのか奴も俺の腰に腕を回してきた。執拗に胸元に吸い付いて夢中でしゃぶってるくせに、中に埋め込んだ指先も上手に動いていつの間に探ったのか俺の良いところばかり捏ねくってくる。クソ、器用な奴だ…。もう理性もドロドロに溶けて流れそうだ。…あんなに気持ち悪かったのに、こんな奴に抱かれるなんてまっぴらごめんだと思ったのに…もうダメだ。  こいつが、欲しい…。 「ぁ…な、あ、まとい……まとい……」 「…ん…?な、なに…?」  赤くなるまで散々に吸われた先端から名残惜しそうに舌先を離して、まといの鼻先が俺のそれに近くなる。甘えるようにその頬に鼻先を摺り寄せて、ガサガサに乾いているくせに濡れそぼった唇に俺のそれを何度も掠めさせた。そうすれば意図を察したのか、あっちからも求めるように口元が開かれて、覗いた舌先に吸い付く。奴の唾液はとろりとしていて、やたらに甘く感じられた。 「あ…アサト、く……」 「っ…ん…」  ちょっと誘ってやっただけなのに、あっという間に余裕を失ったのか噛みつくように唇を重ねられた。まといが口内を犯したがっていることは、無理に歯列を開こうとしている様からもわかったから、軟らかく舌先を伸ばして招いてやる。奴の舌先はあちらこちらを所狭しと動き回って、唾液が口の中で泡立つのが分かるほどだ。どうやらコイツはとにかく舐めるのが好きらしい。舌と粘膜の間、一番軟らかいところだとか、上顎のざらついた場所だとかを味わうように舐めてくる。  …気持ちいい。もっと、もっと舐めろと言葉にする代わりにひっきりなしに送り込まれる唾液を飲み下して、飲み込めない分は胸に落として、全部がどろどろに濡れていく。 「…ふ、ぅ、まとい…、も…意地悪、するなよ…」  たっぷり口付けを交わしながら、また奴が太腿にぐりぐりと雄を擦りつけてるのがわかって、今度は窮屈そうにしているそれを右手で軽く撫でてやった。きっちりと合わされた着物の隙間から指先を滑り込ませて、熱く籠った熱気の中から布をくつろげて外気に触れさせてやると、嬉しそうにびくびく跳ねて、俺よりもはるかにびちゃびちゃになっている。もう我慢しきれず白濁すら垂らしてるじゃないか。よくここまで我慢できるもんだと関心すらする。 「…いいよ…好きにしていいから……挿れてくれよ…」 「ッ…――!ぅ、あ……いいの…?いいの?…うれ、しい…!!」  体が熟れきってるのがわかる。散々指で焦らされた中も、雄をしゃぶりたがって、はやくくれってうるさい。  もうなんだっていい。なんだっていいんだ。その体液まみれの欲望で犯し尽くしてほしい。  ああ、性に縁のなさそうな奴だと思っていたが、俺にここまで思わせるなんて、こいつもある意味上手なのかもしれないな。  皮肉めいた思いはそこで途切れて、あとはもう熱に埋もれるままだ。自分からまといの細すぎる腰に足を絡めて さあ、 と強請ると、漸く奴の切っ先が入口に口づけた。 「は…は、はあ…凄い、あたまぐらぐらする…―――っぁ…!す、ごい…きもちぃ……」 「…ぅ、く…――ぁあ…!!」  じゅぷ、じゅぷ、って、あいつが腰を動かすたびに嫌でもこの広い部屋に音が響き渡る。声も、吐息もそうだけど、これが一番びりびりする。逃げられないように腰を両手でつかまれて、それなのにこいつの動きはその一切をじっくり教えるみたいに何から何までねちっこくてしつこい。こいつの熱が中で震えるのも、どろりと蜜を垂らしてそれを擦り込まれたのも、全部わかる。そのたびに…感じてしまう。 「…は…ぁ、ぁー……まとい…きもちいい……」 「…ぅ、ぅん…おれも…きもちいい…ああ、すごい…とろけちゃいそう、だ…。ほんとに、ほんとに気持ちいい…」  ゆっくり、中を擦られて達しそうに気持ちいいのに直前でそれを引かれて、じれったい。確かめるって言葉がぴったりなように奴は指だけじゃなくて、埋めた欲望そのものですら俺を調べてるみたいだ。もう、限界だ、限界なのに…決定打がなくてイけない。 「…ぅぁ…あ…っ…も…ほんと……むり…だ」  このまま焦らされて、燻らされて、熱ばっかりためられたらついにイかされた時にはどうなってしまうのか。期待と恐怖と、めちゃくちゃだ。頭がぼうっとして何もできない。されるがままだ。まといはまた、胸に吸い付いて夢中になって舐めているし、その髪や耳元を撫でてもやめる気配がない。  お願いだ、頼むから…その頭を抱え込んで、懇願を直接吹き込んでやる。 「ま…とい、も、無理だ…ッ…!なあ…イきたい…イかせてッ…お前の、で、…我慢できない…!  足りないなら…何回でも、すればいいからっ…」  ねえ、なんて、甘く女みたいに強請って、自分からも腰をゆすって先端で奥を突かせる。  ここが好きなんだ、って教えてやれば奴もすぐに気づいたみたいで、驚いたようにあの光るような眼差しで俺を見てから、また、にやりととろけるような色に変わった。 「ぃっ…!!」  きりりとその歯が胸元に立てられて、痛みと快感でびりびりする。それが奴の返答だったのだろう。1つ獣のような荒々しい呼気を放ったかと思うと、今までのじれったい動きはなんだったんだって思うほど思い切り、一度その熱が引かれて、今度は最奥に打ち付けられた。 「ひっ……―――――!!!!!あぁっ…!!!」 「…は…ん…ここ、が、いいんでしょ…?ふふ…ッ…ほんと、えっち、だなあ…」  強請ったのは俺だけど、あまりにその動きは容赦ない。ごつごつと抉るように何度も突かれたらそのたびに視界が白く飛んで、果てるまでなんてあっという間だった。 「ぃ…ッ…く……!!!!!ああ…!!」  一番深いところから、一気に快楽の波が押し寄せて弾けた。気持ちいい、すごく、気持ちいい…  ああ、もう、このまま意識を飛ばしてしまいたいくらい…  なのに 「ッ~~~!!!!や、だ…!も、イってるから……!!やめて…くれ…!中…突くのっ…!!」  せめて一息つかせてくれればいいのに、俺のことなんてお構いなしに奴は堰を切ったように荒々しく暴れ続けている。俺の意志とは関係なく、達するたびに締め付けてしまうせいで体中が過ぎた快楽を貪ってしまい、もう息もできない。いやだいやだと逃げ腰になって床を手で掻いても、腰を掴まれたまま執拗に奥を抉られて逃げられない。 「う、ぅ~~~!!!…!!」 「あ、はは…こう、してって言ったのは…アサトくん、でしょ…??  ふ、ふふ…それに、おれ、まだイってない、し……ああ、ていうか…アサトくんって…い、イったあとが、すごく…いいんだね…っ…!中に出したまま、したら…もっと…よさそう…」 「……は…この……ッ…あぁッ!!」  もう奴の顔を見上げることもできない。与えられる悦が強すぎて、それを受け止めるので精いっぱいだ。自分が今、達しているのか、そうじゃないのかもわからない。意識があるのか、ないのかも…  そのまま奴は俺の中に何度も熱を放って、そのたびに先端で俺の肉とぐちゃぐちゃに混ぜ合わせては楽しんでいた。何度達したのかもわからないままただ、好き勝手に体を貪られて、疲労で眠くて仕方がない。息をするのがやっとだ。 「…ふは…すごい、すごいね、アサト、くん……!想像よりも、すごい…き、君って、本当に……!  ああ……おれも…おれも…君みたいなのが…ほしい、なあ…!」  うるさい、うるさい、うるさい。鬱陶しいな。黙れよ。  頭上から降り注ぐ不穏な音と、それでもしつこく体中を舐り、撫で続ける男に愛想をつかして一足先に意識を手放すことにした。多分、俺が起きてようが寝てようが、どうだっていいんだろ…そのまま犯し続けるに決まってる。  もう好きにしてくれ…  投げやりになったまま、京介がコイツに行った いつでもいい を言質に、今日はこのまま夢の世界にバックレてやろうと決めた。

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