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是正滅法・た
「ソレで、今日もまんまと逃げられたというワケか」
顧問の植木先生にそう嘆息された僕は、頑張りましたという報告だけはする。センパイがしつこく僕に絡んできていた理由のふたつめが、コレであった。
「そうですね。副部長として最善の努めを果たしたつもりですけど、センパイは梃子でも我を通すようです」
いかが致しますか?とご用立てを申し立てるように訊くと、植木先生は少し考える素振りをみせてから首を横に振った。
「早瀬、まぁいい。指導をすべて部長に任せていたわしも悪い」
ココはひとつ、いままでのツケが廻ってきたと諦めよう。そして、早瀬、副部長として部長代行としてこんごの指導をすべて任せようなどといってくるから、僕はソレはもうにっこりと笑って断った。そして。
「あの、植木先生」
「なんだい?」
「クソ顧問としてココに黙って座するか、ソレとも、パワハラ顧問として二度とこの敷地に足を踏み入れれない立場にされるか、選んで貰って構いませんよ」
と。つつがなく丁寧に僕は植木先生に選択肢を与えた。そんな植木先生は「ですよね」と頭を大きく垂らして嘆息をしていた。
そして、いそいそと奥の間から座布団を引っ張りだしてきて、ちょこんと座っている。最初からこうすればよかったと、無駄な足掻きをした僕と植木先生は肩を並べて嘆息する。
「新学期からセンパイもきてくれると思いますから、植木先生も休まずきてくださいね」
そう釘をさして、僕はなんだかセンパイの思うように操られたと思うのだった。
「そういえば、もうすぐアイツの命日だな」
おもむろに植木先生がそう呟くのは、あの人と同級生だったからだろう。そして、そんな植木先生がわざわざ通夜と葬儀に顔を覗かせてきたのは、あの人のゆいいつの理解者だったからだと僕は思う。
「そうですね。今年こそ、いけるといいんですけど」
苦虫を噛み潰したような顔でそういうのは、いまだに墓参りにいけていなかったからだ。僕の中ではまだあの人は、過去の人ではないようなのだ。足踏みをして、どうしようもない葛藤に襲われる。
「そう、無理に忘れることはないさ。時期が来れば、そういうモノだと納得できるよ」
憐れむ人はいても、そうだと割り切れない人もいるのだ。僕がこんなふうにもうもうとしていても、ソレは仕方がないことだと植木先生はいう。だけど、ソレを僕が納得してしまったらあの人は救われるのだろうか?と、僕はふとそう考えてしまっていた。
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