7 / 11

生滅滅己・う

  ◇うゐのおくやまけふこえて◇ 「お待たせしました。荷物、持ちますよ」 高坂さんのいる教室に顔を覗かせた僕はそういって、彼の荷物を持つ。待たせた代償は自らの身体で払うモノ。お金でモノをいわすのは嫌いだから、僕は労働でソレを返す。だけど。 「悪いですね。こんどは、私が遅れてきますから」 高坂さんはそういって、次の約束を取りつけてくるから侮れない。こうやってずるずるとお試し期間を延ばされて、たぶん、疎遠になるようなことはなくなるのだろう。 「解りました。そうしてください」 僕は短くそう返して、具体的なことをあやふやにしようとする。だけど、高坂さんはクスクスと笑って、夏休みの終わりの日にある花火大会に誘ってきた。 「どうです?ひとなつの思いでみたいでよくないですか?」 と。僕は返事もせず、高坂さんの荷物を持って教室をでた。廊下を無言で歩いて、その後ろから高坂さんが無言でついてくる。僕の無言を肯定と取るのは、高坂さんくらいだろう。 昇降口から下駄箱に移動する。終始無言でもそう気まずく思わないのも、高坂さんの不思議なところだ。どうです?の返事にいまさらと返せるのも、たぶん、高坂さんくらいだ。 「夕方、迎えにいきます」 ソレだけをいって、僕は左側の下駄箱に向かった。高坂さんは最上級生だから右側の下駄箱に向かった。 学校をでて、少し歩いたところで高坂さんはおもむろに口を開けた。 「浴衣、着てきてください」 と。男同士で浴衣を着るのはどうか?といっ瞬思ったけど、あの人から貰った浴衣のことを思いだして僕は頷いた。 約束ですよという感じで歩行速度をあげてきた高坂さんは、僕の手を握った。田舎でそう人通りのない海道は、ある意味で隠れたデートスポットのようである。 汗ばんだ手に高坂さんはなにもいわない。当たり前のように握って、当たり前のように指と指を絡ませる。いわゆる恋人繋ぎというモノ。だけど、こういう手の握り方をしているカップルを僕はみたことがない。ソレほど田舎なんだと思う反面、高坂さんがやたら都会慣れしていることを実感してしまっていた。  

ともだちにシェアしよう!