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生滅滅己・ゐ

  真っ白で大きな入道雲に煽られて、飛行機雲がたなびく。その雲の隙間からは、白い月がうっすらとみえていた。 歩いていたハズの僕の足が止まる。あの月が赤焼けの色に染まるころには、この関係は改善されているのだろうか、と。そして、僕の大切なモノを簡単に奪っていくソレは、僕には驚異としか思えなかった。 僕の隣を歩いていた高坂さんが、僕の手を強く引いた。立ち止まってしまった僕のことを物凄く促しているようだった。 「なる、疲れましたか?でも、アパートはすぐソコです。ほら、歩きましょう?」 いつもならそう急かすことはないのに、どうしたのだろうと後ろ髪をひかれたようにふと後ろを顧みる。高坂さんの顔がいっ瞬歪んだ気がしたけど、僕は構わず浜辺の方をみた。 そしたら、浜辺で寝そべるセンパイの上に覆い被さるように重なった女体と、その唇に重なったセンパイの唇が視界に入ってくる。どうみてもそうだという体勢に、僕はウソ?と目をみ開いて硬直してしまっていた。 「考えたらダメです。なる、私の声が聞こえるのなら私の方に顔を向けてください」 みてはいけませんというように、高坂さんはもういちど僕の手を強く引っ張った。そして、高坂さんがそういうのも解る気がする。センパイがいまからする行為を考えたら、僕はみてはいけないのかもしれない。 だけど、あの人を思う感情と僕がセンパイに抱いている感情、そして、高坂さんに持っている感情をない交ぜにしてぜんぶ纏めても同じモノであると解ると、どろどろとした感情がどんどんと心の中から溢れてきた。 この感情は嫌いだ。そう思うと頭の中が真っ白になって。 「───っ………………てください!」 僕はそう叫んでいた。同時に高坂さんの手を思いっきり振りほどいていて、パーンと軽い弾いた音がしたと思ったら僕の頬に猛烈な痛みが走っていた。すぐに、高坂さんに平手打ちをされたんだと気がついたけど、もう遅い。傷ついた顔の高坂さんがソコにいて、僕は物凄い後悔をするのだった。 「………すいません───」 本意ではなかったんですとその場限りのいいワケをしても、高坂さんに届くハズがない。 「────あの、…………」 僕は高坂さんの名前を口にしようとして、固まった。隼斗さん、ソレとも、高坂さん──?僕はいままで高坂さんのことをどう呼んでいたのだろうか?と。そして、いちども高坂さんの名前を口にだしたことがなかったことにいまさら気がつくのだった。さらに。 「解りました。早瀬さん、お試し期間はもうおしまいにします」 高坂さんの口からは手のひらを返したようなよそよそしい態度と、冷たい視線が投げつけられていた。なによりも、「なる」と僕のことを呼ばなくなった高坂さんに、僕は愕然としてしまっていた。  

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