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生滅滅己・の

  「────…………」 悪いのは僕だと解っていてもこんなふうに冷たくされたら、泣きたくなる。ソレなのに。 「私も早瀬さんが結城くんに抱いている感情を多少ながらも、理解していたつもりでした。だけど、私にも限度というモノがあります」 高坂さんはなにごともなかったような顔でそういって、僕の方からアパートの方に顧みた。もう好きにしなさいという高坂さんの突き放す態度に、いまさらセンパイにがなりつけにいったとしても、ソレはタダの当てつけにしかならないことだとさとされたのだ。 そう、センパイが僕を口説こうがだれとなにをしようが彼の自由なのだ。だから、ソレに応じるか応じないかも僕次第である。そして、ソレは高坂さんに関しても有効で、僕自身がちゃんと決めないといけないことだった。 コレが現実でもう引き返すことができないことなんだと解ると、呼吸が荒くなって耳鳴りがした。どうすればイイと考えれば考えるほど、頭が真っ白になって身体が動かなかった。 僕からどんどんと離れていく高坂さんの後ろ姿に、身体の芯から冷たくなる。このまま置いていかれたら僕は高坂さんに捨てられるんだと思うと、背後で女の人といちゃついているセンパイや僕を置いていったあの人のことなんかどうでもよくなっていた。 「は、ぁやと、さぁ………ん」 振り絞るようにしてだした言葉に、僕自身が驚く。タダ、高坂さんの名前を口にしただけなのに心臓が破裂しそうなくらいドキドキしていることに。恥ずかしいという気持ちがいっぱいでもう二度と口にしたくないと思ったけど。 「なにをしているのですか?早くこちらにいらっしゃい。もう怒ってませんよ」 振り返る高坂さんに「なる」と呼ばれると自然と口からでていた。しかも。 「──隼斗さん、どうして───」 捨てられたと思っていた僕としては振り返ってそういってくれるとは思っていなくって、吃驚して呆けてしまっている。ソレに。 「どうしてって、お試し期間を終えたのですからこんどは正式なおつき合いでしょう?」 区切りははっきりとしておかないといけないでしょう?とまでいわれたら、僕はえっ?と阿呆みたいな声をだして高坂さんの顔をまじまじとみてしまっていた。 「もしかして、私がひっぱたいたことを物凄く怒っているのですか?」 ゴメンなさい、あまりにもなるが聞き分けないからつい手がでてしまって。そういって、高坂さんは申しワケなさそうに歩み寄ってきた。だから、僕は思わず哄笑していた。ああ、高坂さんには敵わない。そう思ったからだ。 「なる?なにをそう笑っているのですか?」 「さぁどうしてでしょうね、隼斗さん」 僕はゆっくりと高坂さんの隣に並ぶと「僕こそ聞き分けがなくって、すみませんでした」と謝るのだった。そして。 《そう、無理に忘れることはないさ。時期が来れば、そういうモノだと納得できるよ》 そう植木先生にいわれたことが、コレほど早く理解できるとは思いもしなかった。高坂さんは首を傾げながらも僕の頬に手を伸ばして、優しく撫でる。 「なる、痛かったですよね。本当に、ゴメンなさい」 だけど、僕の唇に微かにあたる高坂さんの親指の腹が物凄く煩わしく感じていた。口を開けてソレを舌で舐めあげたくなる衝動をどうにか抑えるけど、高坂さんにチュッと触れられるだけの軽いキスをされたら、僕はもう我慢ができずに高坂さんに飛びついていた。  

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