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寂滅為楽・あ
◇あさきゆめみしゑひもせすん◇
アパートのいっ室である高坂さんの部屋に入ったとたん性急に求められるキスをされて、僕ははしたなくも高坂さんの首に腕を廻してしがみつく。貪るようなキスにもうどっちから舌を口内にねじ入れたのか解らないくらい、僕たちはお互いを求めていたようだった。
口内という口内を舐め廻られたら、僕はもう立っていられなくなってずるずると下へ下がっていってしまう。ソレをカバーするように、僕の股に高坂さんの足が割り入ってきた。こういうさりげない行為に僕の身体はどんどんと熱く熱を帯びていって、もう終止がつかなくなる。そして、触れられる悦びよりも先に高坂さんの吐息に打ちのめされていた。
「なる?気持ちがイイのですか?」
ゆるゆると腰を動かして股間を高坂さんの膝に擦りつけている僕は、戸惑いもなく頷いて「早くしてください」と強張った。こういう僕の我慢性がないところを高坂さんはどう思っているのか解らないけど、僕の身体をひょいと担ぎあげると風呂場に移動する。
脱衣場で僕のシャツのボタンをひとつひとつ丁寧に外す高坂さんは、いつもより嬉しそうだった。そういう僕も、普段とそう変わらない高坂さんの行動のひとつひとつに興奮して、テンションがあがっていたけど。
「なる、物凄く興奮して嬉しそうですね?」
高坂さんは僕の心境の変化をなにひとつみ逃すことなく、そういってくる。すべてをみ透かされているようで、恥ずかしかった。ソレに、高坂さんの啄むような優しいキスに戸惑う。
僕がキスに応じず拒むように身を後ろに引こうとしたら、高坂さんは物凄く困った顔をして僕から離れていった。
「あの、もしかしてこういうキスは初めてでしたか?」
ハムハムと唇を噛まれるキスはしたことがあるけど、こういうふうに啄まれるのは初めてで僕はしどろもどろする。経験豊かな高坂さんに小さく頷いて、どうしていいのか解らないと顔を伏せると、もういちど同じキスをしてきた。私の真似をしてという高坂さんの視線に、僕は恐る恐る応じる。だけど、高坂さんに啄まれるたびにビクビクと身体が震えた。
「─………ま、って、ください…………」
紅濁する僕は声をあげる。こういう行為にはもう慣れたと思っていたけど、つけ焼き刃はやはりつけ焼き刃だった。
「ふっふ、可愛いですね。こういうふうに恥ずかしがるなるは」
大丈夫ですよ、いくらでも待ちますという高坂さんは、本当に辛抱強く待ってくれた。ついカッとなって手をあげた高坂さんではないようである。といっても、高坂さんが僕に手をあげたのはアレが最初で最後だったけど。高坂さんも僕も物凄く反省したのである。
「えっと、あの、隼斗さん…………」
「はい、なんでしょうか?なる」
そんな僕はもじもじとしながら、「キスはもういいですから、この先のことをしましょう」と埒があかなくなってもどかしさに根をあげていた。高坂さんはクスクスと笑いながら、「イイですけど、大丈夫ですか?この先はもっと恥ずかしいことをしますよ」と意地悪なことをいうのだ。
たぶん、この先もずっと僕は高坂さんには敵わないだろうし、僕のこの気持ちを伝えることはないと思う。だけど、高坂さんは僕のことをだれよりも知っているから、だれよりも僕のことを愛でるだろう。
END
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