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第3話
◇◇
その日は、朝起きてからずっと、何だかそわそわして落ち着かなかった。
トイレに行って、顔を洗って、朝ごはんを食べて、歯を磨いて……。
一連の朝のルーティーンを終え、リビングのソファーにぱたりと座る。
朝早くから母さんと父さんは出かけてしまったから、普段なら聞こえる掃除機の音も、父さんの咳払いも、何も聞こえない。
一人ってこんなに静かなんだな、なんて思いながら、意味もなく立ち上がり、その場で伸びをしてみる。
ーーと、突然側で携帯が震え出した。
慌てて携帯を取り、着信を確認してみれば、同じクラスの雛口からだった。一体、何の用だろうか。
通話ボタンを押し、耳に携帯を押し当てる。
「…もしもし」
『ああ、秋鷹?お前今日ヒマ?』
携帯の向こうから聞こえてくる陽気な声に、少しだけ安心感を覚える。
いつもの、日常だ。
「…今日?なんで」
『ほら、今日神野内公園で祭りあるじゃん。山口達と一緒に行くんだけどさ、秋鷹も来ねえ?』
「あー……悪い、先約あるんだよ」
『先約?…あ、もしかして彼女か?』
「…んー、いや」
少し躊躇いながらも、その名前を口にする。
「…臼田。同じクラスの」
『臼田…?』
その名前を聞いて、雛口はさぞ驚くかと思いきや……意外にも黙り込んでしまった。
雛口がこんな風に黙ってしまうのは珍しくて、何かあったのかと勘繰っていれば、数秒の後、携帯から雛口の妙に落ち着いた声が聞こえてくる。
『…あー、あくまで噂だから、本当かどうかは分からないけどさ』
「…なんだよ」
『ーー臼田の父さんの会社、倒産したらしいぜ。それで臼田の家、…色々大変だとか』
「倒、産……?」
昨日の、翳った臼田の瞳が頭に蘇る。
真っ黒で、奥底の見えない、どろどろした瞳。
その倒産の事実が本当なら、…もしかしたらそのことが原因で、あんなに暗い目をしていたのかもしれない。
『まあ、あくまで噂だけどな。…まあ、そっちはそっちで楽しめよ。んじゃ、切るわ。…またな』
「…ああ」
ブツ、っと電話が切れる。
電話を切った後も、臼田の陰鬱な瞳が、頭から離れなかった。
もし、臼田が何らかの事情を抱えていたとしても、なるべく触れないでおこうと思った。
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