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第4話

◇◇ 走りながら、ちらりと腕時計に目を走らせる。 時刻は午後五時八分。 ちゃんと五時に間に合うように家を出たのだが、神野内公園へと向かう電車が予想以上に混んでいて、一本乗り遅れてしまったのだ。 息を切らせながら、やっとの思いで神野内公園の入り口付近に着く。 分かってはいたけれど、やっぱり人が多い。 噎せ返るような人混みに嫌気がさしながらも、周りをきょろきょろ見渡して、臼田の姿を探す。 ーーふと、入り口の近くにある大きな木の下に蹲っている少年が目に入った。 具合でも悪いのだろうか、少年は身につけている紺の浴衣に顔を埋め、半分木にもたれかかるようにして、しゃがんでいる。 思わず近寄って、肩を軽く叩き、大丈夫ですかと声を掛ければーー少年はぴくんと身体を揺らして、ゆっくりと顔を上げる。 その顔を見て、思わず息を呑んだ。 黒目がちな瞳に滲む、きらきらとした涙。 薄く開かれ、小さく震える唇。 「……っ臼田…?」 ーー後頭部を鈍器で殴られたかのような衝撃に襲われて、少しの間、動くことが出来なかった。 「…あき、たか…」 ぱちぱちと何度か瞬かれた臼田の瞳に、ぷっくりとした涙が浮かぶ。 数秒の後、震える唇がはくはくと動いて、黒い瞳から雫が零れ落ちた。 「…来てくれないかと、思った…」 「……っ」 ぽろぽろと涙を零し、小さく嗚咽を漏らす臼田は、酷く扇情的で、綺麗で、目を離すことが出来なかった。 そっと手を伸ばして、目尻に浮かぶ涙を拭ってやれば、臼田が僅かに身動ぐ。 「……ごめん、…ごめんな」 そう言って謝れば、臼田は俯いて、また目に涙を溢れさせて、ぽろぽろと地面に零す。 よほどハンカチを渡してあげようかと思ったけれど、その涙があまりに綺麗で、それを実際に行動に移すのは、躊躇らわれた。 そっと震える身体を抱き寄せて、背中を撫でてやれば、臼田は抵抗することなく、くたりと身体を預けてくる。 臼田の身体は、すぐに折れてしまいそうなほど、細かった。

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