「おはよう」 びくっ、とした。肘をついて手枕をした天音が、こっちを見ている。 どくどくと心臓が暴れる。昨夜のことを思い出したら、気恥ずかしくて 逃げ出してしまいたくなった。 「お、おはよう」 「何、狼狽えてんの。結ばれた翌朝だぜ」 「だ、って恥ずかしいんだよ」 僕も彼も裸。下着も何も身に着けていない素っ裸でくっついている。 「……恥ずかしいことならいっぱいしたよな」 「思い出させないでよ……」 顔から火が出そう。いや口から炎を吐きそうだ。 「身体が、辛いだろうし、ちゃんと送っていくからな」 「自転車の後ろに乗るの好きだな。重かったら無理言えないけど」 「お前は軽いだろう。背も小さいし」 「自分が男らしい背格好だからって……っ」 ふさがれた唇。忍び込んできた舌は熱くて身体の芯に火を灯す。 鼻から抜ける甘い息。 まるで、彼におねだりしているみたいで嫌になるけど、 抱きしめられたらもう、抵抗する気も失って、また繋がった。 最初の時と違い無遠慮に、浸入（ではい）りを繰り返す天音。 「あ……っん」 「かわいー」 髪をなでながら、突き上げる。 降参の白旗をあげたのは、僕。 胸の中に抱き込まれて、心臓がうるさく鳴り響いて、それが安堵に 変わるのもすぐだった。抱きついて頬を摺り寄せる。 再び目覚めたときは昼が来ようとしていた。慌てて飛び起きる。 「……っ、帰らなきゃ。家の人、帰ってくるんじゃないの」 「無粋なことを言う……」 「余裕ぶっこいてないでよ」 「じゃあ、ファーストフードでも寄って昼飯を食べてから、 お前ん家（ち）に送るよ。それでいいだろ？ 」 さりげなくだが、強引に流れを決められて頷く。 天音の頭の回転の速さはうらやましい。 「うん！ 」 頭をなでられてほほを染める。口づけられた額が熱かった。 それから、ハンバーガーを食べて、送ってもらった。 別れ際は案外あっさりとしていて、拍子抜けしていた。 あれ？と思ったけど言うのもみっともない気がして、 何も言えなかった。 （さみしいなんて、言えない） 僕たちは、交際三か月を経て結ばれた。あくまで自然な流れで あり、奪われたわけじゃない。だけど……。 この後、天音くんは、豹変した。 無理矢理、抱いたし、所かまわず迫ってくるようになった。 触れていないと不安になるとか、言ってたけど 怖くなったのも事実。 泣いて許しを乞うた僕に、天音は、苦し気に謝って、 終わりにしようと言った。 もう会えないよ、ごめんな、お前を傷つけて。 僕が悪かったのだろうか……。 天音とは高校も違ったせいで自然と会わなくなった。 それは、よかったのか悪かったのか。 三年経った今でも、心の中に住み続けている進藤天音。 大きな会社の社長令息である彼は今、T大の経済学部にいる。 学部が違えど同じ大学に、どうにか合格できたが、 いまだに彼と直接会う覚悟はない。 大学内で何度となく姿を見かけてはいた。