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第6話

大学のキャンパスを歩いていたら、天音が反対側から歩いてきた。 「……あ」 思わず声が漏れた。 彼も一人だった。愁いを帯びたまなざしと視線が絡んでしまった。 「零」 天音の声が耳をくすぐる。 (そんな声で呼ぶなよ) 慌てて、踵を返したら、肩をつかまれた。 「お前さ、俺のことずっと見てたよな」 「見てないよ」 「俺も見てたから分かる」 つかまれた肩が痛い。 潤んだまなざしで見上げたら、額を小突かれた。 「何すんだよ」 「俺に声かけられるの待ってたのか。いじらしいな」 「ち、違うよ」 小憎(こにく)らしい天音。 きっと、図星を突かれたからイラつくんだ。 「相変わらず可愛いよな」 「ねえ、どうしてあの時……お別れを選んだの?  やり方、ずるいよね。嫌いになったなら、はっきり言えばよかったのに」 「お前を壊してしまいそうで怖かったからだよ」 「えっ……」 腕をひかれて、木陰に連れていかれる。 大木に押しつけられ、うろたえた。 天音の長い人差し指が顎に触れた。 「何で、早く声かけてくれなかったの」 「やっぱり待ってたのか」 抱きしめられて、息をつく。 涙が、服の肩口を濡らして、ごめん。 天音は、何年分かを取り戻すみたいに、強く抱擁してきた。 影が重なって、唇同士が触れ合う。 とめどないキスの嵐。 絡められた舌に舌を絡めて、貪った。 二人の間で、白い糸がぷつん、と途切れては繋がる。 しばらくして、キスが終わった後、天音が耳元でささやいた。 「一緒に帰ろうぜ。俺の部屋に来いよ」 「……う、うん」 強引な物言いは嫌いじゃない。 優柔不断な僕には、天音がふさわしい。 手をつないで、歩き出す。 乗せられた車の中、彼が運転準備を始めるのを 見つめていた。 「どうした? 」 「僕は免許がないし、親の車しか乗ったことがないから、 すごいなって思ってる。車を運転できるのは、大人だよね」 「お前も取ればいいだろ、免許」 「いらないかなって」 「まあ、これからは俺の車にいくらでも乗せてやるから」 「うれしいなあ」 ギアに手を置く前に、天音は僕の手を握った。 その強さは、鼓動を高ぶらせるのに十分だった。 「行くよ」 エンジンがかかる。 天音の新しいマンションに行くのは、初めてで かなり緊張しているけれど、ここから よりを戻せる。また始められると思えば 心が躍って仕方がない。 走り出した車の中、ハンドルを握る天音の横顔を見つめていた。 (流されるのは癪じゃないから、もっと、ちゃんと理由を 聞かせてよね) 心の声が、全部届くといいのに。

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